【スポーツの価値を見出す機会】
開催地であるヴォー州とローザンヌ市が出資をし、IOCが後援するWISE会議は「スポーツ界におけるキャリア形成」をテーマに行われました。
今回が初めてとなるこの会議の開催には27ヵ国から約800名の参加登録があり、会場はスポーツに携わる熱心な参加者で連日盛り上がりました。
参加者は、スポーツ関連学科のある大学スタッフや学生、各国の競技団体や企業、NOC委員や元アスリートなど、スポーツに携わる方々が集いました。
当日は私もJSCのブースに立たせてもらったのですが、来訪者の学生の方々(FIFAマスター、AISTS等)は非常に意欲的で熱心、さらにスポーツの未来について自身の考えに基づいてしっかりとした意見を持っていると言う事に圧倒されました。
また会場では、2日間で100名のスピーカーによる30以上のセミナーが行われました。
壇上に上がられたのは、大会組織員会の方はじめ、指導者とトップアスリート、国際競技連盟の人事や広報担当、キャリア育成プログラムコーチ等、多彩な顔ぶれとなりました。
気になる内容は、世界的なスポーツの現状やアスリートのキャリア形成に関連する各国の取り組み、スポーツに携わるキャリア育成のための教育プログラムなど、その他にもスポーツに関する最新の情報があちこちで飛び交い、休憩スペースでさえ意見交換の場として活用されるなど非常に有意義な時間となりました。
【アスリートのキャリア形成】
スポーツが直面する大きな問題点として、世界中のアスリートが引退後のキャリア形成に関して同じ悩みを抱えていることを目の当たりにしました。現在IOCアスリート委員会では、現役アスリートへのキャリア育成プログラムをサポートしており、当日はIOCの担当者が事例を挙げて報告するなど、その他にもセカンドキャリアへの移行について詳しいセミナーが開かれました。
現役引退後のキャリア転換時に要する時間は、個人差があり数年掛けてキャリアを形成する選手も少なくありません。
"自分探しの旅"という言葉が一時期、トップアスリートの引退後のメッセージとして、日本中に流行した事があります。まさに「自分が何をしたいのか分からない」という、一からのスタートとなる選手が多くいる事が現状です。会議の中のセカンドキャリア形成におけるセミナーでは、実にユニークなアイデアで自らを知る事からはじまり、細かくは履歴書の書き方までレクチャーしてくださいました。こういったセミナーを、もっと多くの選手が引退する前の選手生活の段階から受けられたら、と感じました。
フランスでは、1984年に設立されたスポーツ法においてセカンドキャリア支援策が制定されました。その後、こういった問題に一早く対応し、キャリア転換時に選手個々の競技実績に見合った国からの保証が受けられるシステムにシフトしています。また国内におけるスポーツの社会的な価値が非常に高く、スポーツ経営が職業として成り立つよう国家資格制度を設けるなど、国をあげてスポーツをバックアップしています。
今後、他国との情報の共有によって様々な形でのアスリートのキャリア形成を実現し、様々なモデルケースを展開することで日本もアスリートの社会的な価値をより見出せるのではないかと思います。
【最後に】
WISE会議にて、自己紹介と合わせ現在スポーツ振興くじ(toto)助成による「若手スポーツ指導者長期在外研修」でフランスに派遣していただいているお話をさせていただきました。日本の指導者育成における取り組みにたくさんの方が興味を示してくださり、また多くの方から温かい激励をいただきました。改めて身が引き締まる思いです。
研修生活も1年が過ぎ日本のスポーツにおける課題と自らの役割が見えてきました。世界中でのネットワークの形成・強化、世界レベルでの情報の共有、及び情報の発信、世界基準での指導者の育成など。
競技現場だけでなく、このような場に携わらせていただく事ができたことは今後益々の原動力となります。有意義な研修を送る上で貴重な機会を提供してくださった事に改めて感謝致します。
【オリンピック・ミュージアム】を視察して
WISE会議参加後に、スイス・ローザンヌにあるオリンピック・スタディーズ・センターと、オリンピック・ミュージアムを訪れました。
オリンピック・スタディーズ・センターはIOCが運営する教育・研究支援施設で、世界のオリンピック研究者に研究支援サービスを行ったり、学生に対してオリンピック研究に関する奨学金を提供する活動をしています。施設内には、各オリンピック競技から、歴代のオリンピック大会、更にはオリンピック招致の立候補ファイルまで、オリンピックに関する様々な分野の書物を収蔵した図書館があります。最近ではIOCや組織委員会等が発行する数多くの資料をデジタル化しているため、ウェブサイト(http://www.olympic.org/olympic-studies-centre)から閲覧・ダウンロードできるようになっています。
また施設内にはIOC創設以来の会議の議事録、IOC委員の書簡などを保管するアーカイブがあり、私も「近代オリンピックの父」クーベルタン男爵や、講道館柔道創始者でもあり、アジア初のIOC委員でもあった嘉納治五郎先生直筆のお手紙など、貴重な資料を拝見させていただきました。
隣接するオリンピック・ミュージアムは約2年の改修工事を経て、2013年12月21日にリニューアルオープン。展示スペースは3,000平方メートルと改修前の倍の広さになっています。
全部で3フロアからなる常設展示では、古代オリンピックの歴史や、近代オリンピック復興の軌跡を学ぶことができ、過去のオリンピック大会でオリンピアンが実際に使用したユニフォームや競技用具、歴代の聖火トーチやメダルの展示があったりと、何一つとっても一生に一度見られるかどうかといった貴重なものばかりです。
その他にも、アスリートのスキルを体験できるコーナーや選手村を再現した展示などがあり、最先端の技術を駆使したシアターでは、アスリートの躍動感溢れる映像が感動を誘います。
最上階にはレマン湖を見下ろせるカフェ(The Olympic Museum Café)もあり、「London」や、「Rio de Janeiro」などオリンピック開催都市にちなんだメニューもありました。私はオリンピック初出場となった2004年アテネオリンピックにちなんで「アテネ」を注文しました。
是非、また訪れてみたいと思います。