- Mama Athletes Network (MAN)
- 取材日:平成28年6月27日(月)・7月26日(火)
- 場所:国立スポーツ科学センター
Q. 競技を続けながらの妊娠・出産はイメージしていましたか イメージはしていました。ジュニアの頃から海外遠征先で、海外選手にママ選手が多く、お腹が大きくなっても氷上に乗っている選手や、生後3〜4ヶ月の赤ちゃんを会場に連れてきてプレーしている姿を見ていたため、結婚・出産をしても競技を続けられるものだと思っていました。10代の頃から、いつか私もこういう風になれればいいなと、ぼんやりとしたイメージはありました。 何より、日本国内では、先輩2人(小笠原歩選手・船山弓枝選手)が産んで復帰しているのを目にしたり、会えば子どもを交えてお話を聞ける環境にあり、連絡を取った際は、こんな感じでやっているよ、と気軽に情報が聞けました。先輩方が先に道を作って下さってくれていたので、悩みを相談することも出来ました。 このように、競技で出会った日本やカナダのママさんカーラーの姿を見て、挑戦してみたいなと憧れていました。結婚や出産がきっかけで競技を辞める道ではない道を進みたいと思っていました。 Q. 結婚・妊娠・出産のライフプランを立てていましたか 2010年バンクーバー五輪を終えた後、地元で新しいチームを作ると決めて戻りました。その際に、結婚が待っているから地元に戻ったのではなく、出会いがあって2012年25歳の時に結婚しました。最初の2年くらいで1人目妊娠を希望していましたが、欲しい時にできず、諦めようかなと思っていた時にやっと妊娠しました。出産は2015年29歳の時でした。年齢的にも子どもが欲しかったのですがなかなかできず、結婚から妊娠・出産までは、私の場合は時間が空いていますね。 Q. 世界選手権・オリンピックなどの大会を見据えてプランを立てましたか トリノ五輪・バンクーバー五輪は、自分の力を発揮できなかった、自分のメンタルが弱いと感じたオリンピックでした。地元に戻ったのは、全部を捨てて一から自分がやっていた競技を見直そうと思ったからです。結構、周りからは反対されたのですが、新しいチームを作って、いつか世界で活躍できるチームにできたらという気持ちがありました。どれくらい時間が掛かるだろう?という思いは正直ありましたね。 Q. 妊娠期のトレーニングはどのように計画しましたか チームトレーナーが理学療法士で、元スポーツ選手の奥様をお持ちで引退後出産を経ていたことなど、沢山の知識を持っていた方でしたので、産婦人科のドクター→私→トレーナーの連携で、身体の変化に合わせたトレーニングが出産間近まで出来ました。 トレーナーからは、安産=復帰を早めるためと指導を受けました。ドクターストップがかからない程度で、出産間近までトレーニングを積んでおけば、お産の時に息む力も違ってくるし復帰も早められると指導を受け実践しました。産婦人科の検診結果なども考慮し、医学的に安全かどうか確認しながら、定期的に細かくチェックをして頂き、トレーニングメニューの設定をして頂きました。 定期的なチェックの内容は、与えられたトレーニングをどのくらいできていたか、トレーニングメニューは正しいフォームでできているか、腰痛などの痛みが出ていないかでした。背中に少し痛みが出ていたので、特にその点は出産までの経過をチェックしていました。あとは、トレーナーも先輩パパだったので、素朴な悩み・不思議に思っていること等、身体の変化について相談することができました。 ママアスリートは、ドクターストップがかからない程度の難しいラインでトレーニングしないといけないということを実感しました。無理はしない、でもちょっとはいけるところまでやるというボーダーラインを、自分だけで判断するのは正直不安だったので、総合的に判断して下さるトレーナーがいたことは、復帰を焦る気持ちをうまくコントロールすることに繋がって、メンタル面の安定に繋がりました。 Q. 妊娠期のトレーニングはいつからいつまでしていましたか 妊娠が分かったのが3ヶ月だった為、気づいてからは、妊娠前の負荷が大きいトレーニングではなく、競技復帰の一番の近道である、「安産」を第一に考えたトレーニングメニューに変更しました。出産前日までジムに行ってトレーニングしていました。 Q. 妊娠期のトレーニングは具体的に何を行いましたか 陸上トレーニング: 妊娠初期の筋力トレーニングは、やや強めの強度で行いました。お腹が出始めて、骨盤が動き始めたと実感した妊娠5・6ヶ月くらいからは、安産に向けてのトレーニングに切り替えていきました。トレーナーには、産婦人科の超音波検査の結果を見せ、産婦人科の先生から言われた事を伝えて、私のフィーリングも聞いて下さった上でメニューを変えていました。 後期は、インナーマッスルを意識しながら呼吸をするメニューが多くなりました。トレーナーからは、お腹に張りが出たと思ったら一回休憩をして、休憩しても張りが治まらなかったらその日は止めるように言われていました。私の場合は、お腹の張りが出たのが、出産当日くらいでした。トレーニング後にちょっと硬くなる程度で、すぐに治まっていたので、そんなに悩まなかったです。身体の変化に合わせた回数・セット数を設定してもらっていたため、お腹の張りを感じることはほとんど無かったです。 あとは、定期的にウォーキングをしていました。心拍数を測ることは特にしていませんでしたが、歩く時間は設定してもらっていました。お腹が大きくなってくると大股で歩けなくなってくるので、深呼吸を意識しながら行うよう指導を受けていました。 後期には、お腹がだいぶ下がってきている感覚はありました。腹帯(コルセット)をしたら一気に筋力が落ちてしまうため、自力でお腹を支えるようにトレーナーから指示されていました。明らかにお腹が下がったと感じたのは、出産の当日でした。 氷上トレーニング: 9ヶ月まではチーム練習で氷上に乗っていました。カーリングフォームが普通にできたのは妊娠5・6ヶ月まででした。それ以降は骨盤が開いてきているのが分かりました。 Q. 出産後のトレーニングは具体的に何を行いましたか 出産後トレーナーに状況報告をして、産後2週間頃に復帰のメニューを指示してもらいました。始めは育児の合間に家でできる、寝た状態でインナーマッスルを意識して動かすトレーニングが中心でした。いきなり立って行おうとしても、まだ体がグラついてしまい怪我のリスクがあると指導を受けました。骨盤の締り・バランスの左右差は感じました。 産後1ヶ月くらいからは、トレーナーにフィジカルや骨盤チェックなど、パーソナルトレーニングを受けました。トラブルや痛みは特になかったです。筋力トレーニングは、自重でインナーマッスルを意識して行う、怪我のリハビリのようなメニューで、特に骨盤を固定するトレーニングを行いました。カーリングフォームは仙腸関節(骨盤内にある仙骨と腸骨の間にある関節)を無理に開く動作が多いのですが、仙腸関節が産後6・7ヶ月までぐらついていて、戻りが遅いのではないかと不安がありました。トレーナーからは、予想していた通りの緩み具合だからと、まずは動かすのではなくしっかりベルトを付けたように骨盤を締める・固定するトレーニングを第一にやりました。 Q. チーム練習に復帰した時期はいつですか 氷上トレーニングは、産後2ヶ月目くらいにチームメイトよりレベルの低い基礎練習を始めました。最初は1時間もできず、30分から始めました。チームメイトと一緒にトレーニングをしたのは、1月末(産後3ヶ月半)からです。2月の全日本選手権に向けて氷上に入りました。 Q. 出産後のトレーニングで身体の変化を感じる出来事はありましたか 出産で骨盤は変わりました。出産前の自分の癖で、一部分に負担がかかっていた箇所もリセットされ、そこから鍛え上げれば新しい骨盤を手に入れることができる、とトレーナーから利点を教えてもらっていました。 カーリングフォームも変わりました。メンバー同士でフォームをチェックするのですが、別人みたいと言われました。変化も感じながら楽しみながら今のこの骨盤に合うフォームを探していますね。ある程度、フォームの癖やタイミングは変わらないですし、以前自分が弱いと感じていた骨盤周りの筋力はやはり弱いままで、産後も変わらなかったです。産後8ヶ月経った今でもまだ完璧ではなく、筋力トレーニングで骨盤を締めている段階です。 Q. 試合に復帰した時期はいつですか 産後4ヶ月で2月の全日本選手権は実際にプレーはせず、サポートという形でチームに帯同しました。その前に、産後2ヶ月の時、12月に国内で公式試合ではない大会に子どもと一緒に行って、チームに合流できるかを試しました。試合復帰はまだです。私がいなかった時期に入ってくれている選手がいますし、個人競技に比べるとなかなか出場のチャンスはありません。とはいえ、カーリングは少人数制の団体競技で、試合に出られるメンバーが4人、私のチーム全体で5人しかいないので、いつでも試合に出られる準備はしています。 Q. 仕事・育児・トレーニングの3つをどのように両立していますか 練習・トレーニングがある1日・オフの日もタイムスケジュールを立てて動いています。優先順位はしっかりつけています。何よりも主人の協力で両立をすることが出来ています。 主人は競技復帰に賛成してくれて、やりたいと思うのであればチームの力になるように頑張っておいで、と言ってくれました。主人の実家にお願いして子ども預かってもらうことがあります。昨シーズンは最長で3週間預かってもらいました。トレーニングの際は、自宅の近くにある保育所を利用しています。 妊娠がわかった時、所属チームに伝えたところ、次の平昌五輪まで微妙な時期でしたが、メンバーは喜んでくれました。チームから一旦離れるため、チーム内で話し合い、今後起こり得ることを想定したり、妊娠期の遠征には同行できない時期も長くなるため、役割分担を徹底しました。メンバーの中に一人でも子どもを帯同させることを反対する人がいたら、今の状態でのプレーは出来ていなかったと思うので、チームには助けられていると感じます。 産後は育児も入ってくるので、復帰を焦ってもしょうがないと考えています。目の前のことをどれだけ的確にできるか。育児が入るとルーティーンなんていうものはなくなりますね。いかに今日に順応できるか、という感じでやっています。 Q. 遠征先に子どもを連れて行って困ったことはありましたか 産後2ヶ月で、国内の遠征に子どもを連れて行った時、私の周りの方々は一生懸命支えてくれました。ただ、遠征先で子どもが風邪を引いてしまった時は責任を感じました。風邪を引いた時は、練習の合間や午後だけ練習を休んだりして、病院に連れて行きました。ホテルは乾燥していますが、赤ちゃんには保湿がいるので湿度を高めに維持したいのですが、ホテルによってはなかなかできなくて、世界選手権前は風邪を引かせてしまいました。 Q. 海外遠征先に子どもを連れて行きたいですか 遠征先での病院受診やチームスケジュールに沿えないことが出てくるので、選手のうちは一緒に海外遠征は我慢だと思っています。最近では日本人が狙われるテロなども頭の片隅にはおいてあります。 Q. 今後の目標やライフプランは考えていますか 今後は2018年に韓国の平昌五輪があるので、そこに大きな夢や目標があるのですが、それまでに日本の女子カーリングが、確実にオリンピックに行ける切符を取れるよう国内外の戦いを1戦1戦大事に戦うことだけだと感じています。私はこの4年間で妊娠・出産を経験したので、自分自身をいつでも戦えるように、チームの一つの武器となれるように調整していきたいと思います。今まで出たオリンピックの時より、今の方が気持ちも安定していると感じますし、発する言葉であったり、競技に対する考えであったり、だいぶ成長したと感じているので、あとは体力とスキルを落とす・維持するのではなく、しっかりと上げていくという意識で取り組んでいけたらいいなと思います。 ライフプランは、育児と家事を両立して、私にとってカーリングは職業と思っているので、世の中の働いているママと同じように、バランスをしっかり取って、最後に大きな感謝を自分の言葉を伝えられるように頑張っていきたいと思います。 Q. ママアスリートの魅力を教えてください 働くママは沢山の壁にぶつかりますが、家族と一緒に乗り越えます。いつか息子が大きくなったとき、私が息子に「がんばれ!」という日が来ます。その時に頑張り方・感謝の仕方をきちんと教えられる母親になれるのではないかと思います。何よりも、息子がいたから夢や目標がより明確になったことは感謝でしかありません。 |