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2019/04/18 9:22
城所 収二、稲葉 優希、吉田 和人、山田 耕司、尾崎 宏樹
卓球競技において、選手はお互いに得点を重ねるためにボールのスピード・コース・回転などを駆使して、相手が打ち返し難いボールを次々と繰り出します。そのため、選手は常に時間に余裕のない中でのプレーを余儀なくされ、打ち返されたボール毎に、打点位置に向けた迅速な身体移動と、ラケットを短時間で一気に加速させるスイング動作が必要になります。
一般に、スイング動作のような回転がメインとなる運動の場合、身体の末端部や、手部で把持する打具をインパクトに向けて大きく加速させるには、身体の中心部から末端部へ向けて順次加速させていく「運動連鎖」の技術が重要になってきます。近位側である体幹部の強い回旋運動が、遠位側の上肢を相対的に遅れさせますが、ムチのように捻り戻されるため、末端部が大きく加速していきます。バドミントンやゴルフ、野球の投球動作においては、一時的な逆捻り角(バックスイング)が大きな選手ほど、ボール速度が大きいことも観察されています。つまり、いくつかのスポーツでは、肩や腰の関節可動域を大きく扱うことがパフォーマンスを向上させる1つの要因になり得ますが、時間的な制約の強い卓球のフォアハンドストロークにおいても同様なのかは分かっていません。
そこで、卓球競技者がフォアハンドトップスピンストロークを行った時の肩と腰の関節運動を測定して、各競技者のもつ関節可動域とスイング速度・スイング時間の関係を調べました。
実験方法
全日本ナショナルチームの代表選手10名(すべて男子)に、身体の移動を伴わないチャンスボール課題と、左右への身体移動を伴う飛びつき課題と回り込み課題の3種類(図1参照)を、いずれもフォアハンド・トップスピンで、出来るだけ威力のあるボールとして打ち出してもらいました。また、各選手の関節可動域を測定するためのテストを別に行いました。
図1:左からチャンスボール、飛びつき、回り込み
ラケットと身体の運動をモーションキャプチャシステム(500fps)によって記録し、肩関節(胸郭‐上腕)と体幹関節(骨盤‐胸郭)のバックスイング方向への最大捻転角度を調べました。
結果
3種の打球場面のうち、時間的に余裕のあったチャンスボール課題では、飛びつきや回り込みに比べ、バックスイングを大きくとっていました(肩関節の最大水平外転角:33.3±20.9°、体幹関節の最大捻転角:29.5±9.1°)。それでも、別に行った可動域テストの結果(肩関節:42.7±12.3°、体幹関節:55.7±6.7°)に比べると小さく、可動域を目いっぱい使ったスイングとは言えませんでした。とはいえ、スイング動作は骨盤の前方への回転がインパクトのおよそ0.2秒前から始まり、胸郭、上肢と順々に加速してく動連鎖の様子が観察されました。(図2参照)
図2
チャンスボールは前方へのスイングが他の条件よりも早く開始され(チャ:-0.21±0.02秒、飛び:-0.19±0.01秒、回り:-0.16±0.01秒)、十分な加速時間によってインパクト時点での大きなラケット速度を獲得できていました(チャ:82.8±5.0km/h、飛び:72.4±5.0km/h、回り:76.3±3.6km/h)。しかし、同一条件内でみると、卓球選手のもつ肩や腰の解剖学的な柔軟さや、スイング時に関節を大きく動かす機能的な柔軟さは、ラケット速度やスイング時間といったパフォーマンスに対してプラスに働くことはなく、どちらかといえば、バックスイングの小さなスイングほど、大きなラケット速度や、短いスイング時間を記録していました。
したがって、短時間で一気にラケットを加速させなければならない卓球選手には、骨盤の回転によって逆方向へ捻られ始めた胸郭や上肢を一気に捻り戻せるような、関節を硬いバネのように扱う筋力や技術が必要になることがわかりました。ただし、これらの結果は、関節の柔軟さが乏しい方が良いという結論には至りません。
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