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投稿者:
host
2019/05/17 11:24
吉野昌恵、袴田智子、元永恵子、石毛勇介
パラリンピックアルペンスキーは、立位、座位、視覚障害の3つのカテゴリーで競技が行われます。競技種目は、滑降、スーパー大回転、大回転、回転、スーパー複合の5種目です。パラリンピックアルペンスキー選手は、12月から翌年の3月までワールドカップを転戦するため、健常者のアルペンスキー選手と同様、シーズン中の多くを海外で過ごします。さらに、5種目すべてに出場することや、飛行機や車での長時間移動が多いことから、シーズン中のスケジュールはとても過密です。そのため、シーズン中を良いコンディションで過ごすことが競技成績に直結します。
パラリンピックアルペンスキーチームには、シーズン後半に疲労が蓄積する、風邪をひきやすくなるなどのコンディション低下が課題となっており、その原因として、雪上(トレーニングやレース)での水分摂取量が少ないことが挙げられました。雪上では、トイレの場所が限られる、車いすを使用している座位カテゴリーの選手の場合はトイレへの移乗が困難などの理由から、選手は水分摂取を控える傾向がみられました。そのため、脱水が起こっている可能性がありました。
そこで私たちは、実際に脱水が起こっているのか調べるために、体重と尿比重※を測定しました。脱水が起こると、体重は減少し、尿比重値は上昇します。調査期間中、選手は4日間連続でレースに出場しました。個人差はありましたが、チーム全体の傾向としては、レースが続くとその後半に起床時体重の減少、尿比重値の上昇が見られました(図1参照)。また、高比重尿とされている1.030を超えている選手もいました。この結果から、起床時に脱水状態である可能性があることが考えられました。シーズン中、このような状態が続くことはコンディションに悪影響を与えることが予想されました。水分をもう少し多めに補給したほうが良さそうだということが分かりましたが、冒頭にあるような理由から、雪上で十分な水分を補給することは難しい状況でした。そこで、翌朝までに脱水状態から回復できているよう、雪上でのトレーニング後やレース終了後に速やかに水分補給を開始し、総体的な水分摂取量を増やすように指導しました。
その結果、翌シーズンの尿比重測定では、1.030の高比重尿を示したのは1名で1回のみでした(図2参照)。つまり、水分摂取量を増やすことで、ほとんどの選手が翌朝までに脱水状態から回復することができたと言えます。
図1 サポート開始時の尿比重値
図2 サポート後の尿比重値
※尿比重は、尿中に溶けているナトリウム、尿素、糖、蛋白などの量を示す指標です。水分摂取量や運動による発汗など多くの要因で変動します。
論文の原文はこちらのURLをクリックしてご覧いただけます。→ JHPS『パラアルペンスキーナショナルチームに対する栄養サポート - 脱水予防と体重管理を中心としたコンディショニングに関する一考察 -
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