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2019/07/16 13:27
内藤貴司、下山寛之、赤澤暢彦、原村未来、田崎雅大、髙橋英幸
テニス競技の4大大会の内、全豪オープンおよび全米オープンは気温35℃を超える環境 (暑熱環境) 下でしばしば行われています。このような環境下で運動を実施すると、身体の中の温度 (深部体温) が過度に上昇し、運動能力および判断能力などの認知機能を低下させます。テニス競技は、来年開催される第32回オリンピック競技大会 (2020/東京) においても暑熱環境下で行われることが明白であり、深部体温の上昇を抑制する方略を探さなければなりません。
テニス競技は試合中に90-120秒間のブレイク (ベンチでの休息) が多くあり、このブレイク時に深部体温の上昇を抑制する方略を取ることができます。その方略の一つとして、身体冷却が検討されています。今までの研究では、ブレイク中のアイスタオルとベストの着用 (図1) によって、深部体温上昇を抑制することが明らかにされてきました。しかし、この方法は皮膚に冷たいタオルやベストが直接触れてしまうため、筋肉の温度低下が懸念されます。そこで私たちは、近年注目されているアイススラリー (Ice slurry) の摂取を用いた身体冷却方略に着目しました。アイススラリーは、水と細かい氷がシャーベット状に混ざった氷飲料 (図2) です。サイクリング前のアイススラリー摂取は深部体温を低下させ、運動の持続時間を延長させることが明らかにされています。一方で、テニス競技のような運動とブレイクがある種目においても、アイススラリーの摂取が深部体温の上昇の抑制に有効かどうかはわかりません。
そこで私たちは、この課題を明らかにするために7名のアスリートを対象として、テニス競技の試合をシミュレートした運動のブレイク中のアイススラリー摂取は、普段摂取している飲料と比べて深部体温を変化させるか測定しました。
左 図1 ブレイク中のアイスベスト着用のイメージ
右 図2 アイススラリー
実験方法
運動は室温36℃、相対湿度50%に設定された実験室でテニス競技の試合をシミュレートしたランニングを行わせています。選手は、ブレイク毎にアイススラリーもしくは4℃のスポーツ飲料を約80 gを摂取しました。アイススラリーは作成機を用いて、スポーツ飲料から作成しています。
結果
ブレイク中のアイススラリー摂取は、運動の後半 (3セットの3ゲーム目) からスポーツ飲料摂取に比べて深部体温の指標の一つである直腸温の上昇を有意に抑制しました (図3A)。また、総発汗量もブレイク中にアイススラリーを摂取すると、スポーツ飲料摂取に比べて有意に少なくなりました (図3B)。
図3A テニス競技をシュミレートした運動中の直腸温の変化量
図3B テニス競技をシュミレートした運動中の総発汗量
発汗は暑熱下における運動中の放熱として重要な役割がありますが、アイススラリーは冷たい飲料に比べて高い冷却能力を有しているため、発汗に頼ることなく深部体温の上昇を抑制できたと考えられます。アイススラリー摂取は深部体温上昇の抑制に加えて、発汗量も抑えることができるため、脱水の予防にも有効かもしれません。
一方で、この測定では運動能力の測定は行なっていません。また、実験室内での測定であり、今後は本番の環境を想定し、かつテニス競技特有の動きを交えた中での測定が必要であると思われます。
競技現場への応用
この研究で用いたアイススラリーは専用の機械で作成しましたが、氷とスポーツ飲料を市販のミキサーにかけて作成することができるクラッシュドアイス (Crushed ice: 図4) でも同程度の冷却効果が報告されています。この飲料を密閉性の高い魔法瓶入れ、競技の休息間に摂取する方法も深部体温上昇の抑制が期待できるかもしれません。
図4 クラッシュドアイスの作成例
論文の原文はこちら→
Takashi Naito, Hiroyuki Sagayama, Nobuhiko Akazawa, Miki Haramura, Masahiro Tasaki, Hideyuki Takahashi. (2018) Ice slurry ingestion during break times attenuates the increases of core temperature in a simulation of physical demand of match-play tennis in the heat. Temperature (Austin). 5:371-379.
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