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ハイパフォーマンススポーツセンター(HPSC)研究員インタビュー: 大伴茉奈(スポーツ科学・研究部 測定技術グループ)

大伴茉奈

スポーツ科学・研究部の測定技術グループに所属する大伴茉奈さん。国立スポーツ科学センター(JISS)で行っているスポーツ医・科学支援事業では「球技・水辺系」の各種目(ハンドボール・ラグビー・フィールドホッケー)を担当し、主に選手たちの体力測定やそれに関わる研究をしています。彼女はなぜJISSの研究員になり、今後どんな研究をしていくのでしょうか。

ケガの経験から研究者を目指す

私は小学生からバスケットボールを始めましたが、中学生の頃に成長痛で悩まされ、一時バスケが楽しくなくなってしまいました。その経験から早稲田大学スポーツ科学部を目指し、入学後は部活でバスケを続けながらトレーナーゼミに所属。プレーヤーではなく研究の道に進みたいと思うようになり、大学院に進学しました。博士課程まで進み、その後3年間は助教として授業ももっていました。

JISSに勤める大学の先輩がいたので、当時からJISSは身近な存在でした。競技団体のスタッフや選手と直結して国際競技力向上のための研究をしている機関は、日本でJISSしかありません。将来は大学の教員になりたいと思うものの、そのためにいろんな経験を積みたい、自分の研究をもっと深めたいと思い、JISSで働くことを選びました。現在4年目です。
大伴茉奈

測定と脳振盪(のうしんとう)の研究

私は「測定技術グループ」に所属しています。選手の体力測定と、どんな測定項目が必要かを競技団体のスタッフと話し合って決めるのが主な仕事です。対象となるのは、オリンピック・パラリンピック競技の日本代表や代表候補選手。私たち研究員は、「記録系」「格闘技系」「ラケット系」「雪上系」「球技・水辺系」など、特色別の11カテゴリーに分けられており、私は「球技・水辺系」の種目担当で、特に男子ハンドボールを多く見ています。同じ球技系の他種目を担当している研究員から、バスケットボールやバレーボールでの測定について教えてもらったり、海外の研究を調べたりして、ハンドボール選手にはどういった体力測定が必要かを分析して実施しています。こうして測定した結果は、トレーニング効果を見るために使われたり、アンダーカテゴリーの選手が目標にするために使われたりしています。

また、研究員はそれぞれ自分の研究テーマをもっていて、私のテーマは「ケガの予防」。そのなかでも脳振盪(のうしんとう)について研究しています。この中で、「多くの人に脳振盪(のうしんとう)の危険について知ってもらうために、簡単にまとめたパンフレットや動画を作りました。また、脳振とうは女性アスリートの方がなりやすいと言われているため、スポーツ庁の受託事業の中で女子サッカーのWEリーグの選手にインタビューをしたり、必要なケアのための動画も作りました。」このように研究と同時に、啓発活動も行っています。

脳振盪(のうしんとう)の啓発コンテンツ
脳震盪ハンドブック

トップアスリートと関われるJISS

JISSの一番の魅力は、やはりトップアスリートと関われること。オリンピック・パラリンピックで活躍する一流選手たちをサポートするので、やりがいも大きいです。ただし、自分のアドバイスしたことが競技成績に直結することもあるので、責任がある分根拠をもって接する必要があります。簡単に「大丈夫」とは言えません。トップアスリートと関われることが一番の魅力ではあるけれど、選手たちに接するために自分がどんな準備をするべきか、どんな根拠を示せるのか。その部分は本当に重要です。

また、JISSには約60名の研究員がいて、本当にいろんな人がおり、仲間には恵まれているなと思います。私にとっては特に、パラスポーツに関わるようになったのは大きな経験でした。いまだに研究データが多くない領域なので、研究員同士が考えに考え抜いて選手たちのパフォーマンスアップに必要な要素を探ります。研究員たちのパワーと、それに応える選手たちのストイックさにとても感銘を受けました。

JISSには、もともとスポーツ好きな職員が多いと思いますが、こうしたサポートを経て、応援にはさらに熱が入ります。自分がサポートした選手たちが大会で頑張っている姿を見て、同じチームの一員のような気持ちで応援しているときも、この仕事のやりがいを感じる瞬間です。

我々研究員は、研究だけをしていればいいわけではなく、「支援と研究の両輪」が大事だと思っています。現場に行かないと見えない問題点はたくさんあるし、研究したことを現場に伝える能力も必要です。練習を見に行って、応援したりボールを拾ったりするだけでも、選手たちを身近に感じられます。現場の支援が研究を伝える場になるので、研究を伝えるところまで自分でできるようになるのが理想です。

大伴茉奈

JISSを目指す学生へのメッセージ

JISSでの研究に興味のある皆さんには、ぜひいろんなスポーツを見てほしいと思います。スタジアムや体育館に足を運んで、実際の競技の音を聞くだけでも、その競技に自分だったらどう関わりたいかが見えてきやすいからです。私はバスケットボールしかやってきませんでしたが、もったいなかったなと思うので、たくさんのスポーツに触れてみてください。

あと、英語は必須です。論文を書くときだけでなく、海外の事例を調べて比較することも多いので、早いうちから英語の勉強をしておいたほうがいいでしょう。海外の研究者と直接話す機会もありますし、アスリートも海外でプレーするために英語を頑張っているので、支える側も頑張らないといけませんね。

私自身は、測定に関わる研究と支援を行いつつ、自身のテーマである脳振盪(のうしんとう)の研究と啓発を進めて、選手の安全を守ることが目標です。脳振盪(のうしんとう)を起こす選手の数を減らすのが大きなテーマで、そのために選手や保護者、指導者、チームスタッフに脳振とうについて知ってもらうこと。今後は、競技団体が脳振盪(のうしんとう)防止のガイドラインを作成するときなどにサポートできるようなツールが作れたらいいなと思っています。
大伴茉奈

<プロフィール>
大伴茉奈(おおとも・まな)
ハイパフォーマンススポーツセンター(HPSC)研究員として2019年より現職。
早稲田大学大学院スポーツ科学研究科博士課程修了
早稲田大学スポーツ科学部スポーツ医科学科
早稲田大学スポーツ科学研究科修士課程
早稲田大学スポーツ科学研究科博士後期課程
出身:東京都

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