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ハイパフォーマンススポーツセンター(HPSC)研究員インタビュー:高井恵理(スポーツ医学研究部門 栄養グループ)

高井恵理さん:イメージ1


スポーツ医学研究部門 栄養グループに所属する高井恵理さん。2020年度より国立スポーツ科学センター(以下、JISS)の契約研究員として従事。「女性アスリート研究・支援プロジェクト」で妊娠期・産後トータルサポートをはじめ、アスリートへの栄養・食事サポートに携わっています。ハイパフォーマンススポーツセンター(以下、HPSC)での管理栄養士の活動についてお話を聞きました。


憧れの研究者と同じ職場に


私は中学・高校時代に陸上部に所属していました。日々、速く走れるようにトレーニングしていましたが、中学2年生の時に貧血に悩まされ、思うような練習が出来なかった経験をしました。その時にスポーツと栄養・食事に関する本を読んで、「運動・栄養・休養」の大切さを初めて知りました。それが現職を目指す始まりとなっています。


まず「管理栄養士」という資格に興味を持ちましたが、その頃は「公認スポーツ栄養士(注1)」という資格はなく、大学でもスポーツ栄養に関する講義もありませんでしたので、スポーツ栄養の分野を立ち上げられていた先生方が主催する研究会などに積極的に参加し、勉強していました。当時よりJISSには、スポーツ栄養分野の第一線で活躍されている先生方が働かれており、いつかは自分も同じ場所で働いてみたいなと思っていました。そのスポーツ栄養の分野の基盤を築いた先生方と一緒の職場で働けているのは、ある意味、夢が叶った感じです。


(注1)公認スポーツ栄養士とは、競技者、監督、コーチ、トレーナーなどのスポーツの現場から、競技者の栄養・食事に関する自己管理能力を高めるための栄養教育や食環境の整備などにいたるまで、栄養サポートに対するニーズに的確に応えることのできるスポーツ栄養の専門家であり、公益社団法人 日本栄養士会および公益財団法人 日本スポーツ協会の共同認定による資格です。


高井恵理さん:イメージ2


女性アスリートの悩みに寄り添う


JISSでは、主に女性アスリートのエネルギー不足や健康課題に対して栄養・食事面から支援および研究を行っています。
エネルギー不足の問題が見られるのは、やはり体重を増やしたくない持久系アスリートと、プロポーションがパフォーマンスに影響を及ぼす審美系アスリートが多いです。本人の太りたくない、美しくありたい気持ちもありますが、小さい頃からアスリート周辺の環境が“太ってはいけない”という考え方になっていて、運動量に見合った食事量が摂取出来ていません。近年になって指導者の認識も変わってきましたが、ジュニアの頃からエネルギー不足の状態になっている選手が見られます。ジュニア世代は、運動エネルギーに加えて、体の成長にもエネルギーが必要なのです。特に、エネルギー不足の状態になっている選手は、エネルギー源栄養素である炭水化物の摂取量が少ない傾向にあるため、炭水化物の摂取量に着目して研究をしています。



コーチングのためのバイオメカニクス関連機器の活用ガイドライン:イメージ
女性アスリートのための栄養・食事ガイドブック(PDF)


また、「女性アスリート研究・支援プロジェクト、妊娠期・産後トータルサポート」では、妊娠、出産を経て、育児をしながら競技復帰を目指すアスリートに対して栄養サポートを担当しています。自分も同じ経験がありますから、当時のことを踏まえながら選手の気持ちに寄り添うようにしています。選手は「出産後に体型が変わってしまった」「早く競技復帰を果たしたい」などといった悩みを抱えています。そうした選手に対して、医師、理学療法士、トレーニング指導員、心理スタッフ、そして私たち管理栄養士が栄養面で支え、HPSC内で連携を図って支援しています。


高井恵理さん:イメージ3


大切なのは選手との信頼関係


支援やサポートを行う上で大事なことは選手との“信頼関係”です。食事は生活の基本ですから、私たちがアセスメントするために家庭や私生活面の話にも踏み込むことがあります。選手からの信頼はとても重要だなと思います。ジュニアアスリートをサポートする場合は、選手本人だけではなく保護者との信頼関係も必要です。アセスメントのために面談を行う時は、選手と保護者別々に時間を設けて、それぞれのお話を聞くこともあります。それぞれから異なるお話がなされ、どちらが事実かなと思うときもありますが、否定せずに耳を傾けます。
また、面談のたびに「高井さん、見てください」と撮り溜めた写真を見せてくれる選手もいました。1ヶ月分とか相当量になるのですが、「写真を撮ったら、その食事を食べた時の気持ちも書いておいて」と私からのお願いにも応えてくれて、写真と共に食事の時にどうだったと話してくれます。それが選手にとって食事のモチベーションになっているようですし、私自身も選手の話を聞いて、課題解決に向けてどんな時にどんなことができそうかな、と選手の生活を思い浮かべて具体的な行動計画を立てるのに役立っています。


JISSを目指す学生へのメッセージ


私がJISSに入職してから、さまざまなアスリートに携わらせていただきました。オリンピック・パラリンピック選手、ジュニアからシニアと年齢も幅広く、競技種目も多種多様です。自分が経験してきた陸上競技についてはよく分かっているつもりですが、それ以外の競技については不勉強なことが多かったです。選手のサポートを行ううえで、競技特性や競技時間など練習や試合の状況を知らないといけないなと思いました。スポーツ関連の仕事を希望する方は、会場に足を運んで現地での試合観戦や、それが難しい場合は、インターネットの動画サイトでも視聴することができるので、ぜひ、いろいろな競技種目を知っておいて欲しいです。


コロナが明けて、海外からHPSCを視察される方も増えています。施設や私たちの研究内容を説明するために外国語でのコミュニケーションが必要な場面も増えました。また海外の研究者による講演や世界大会でのサポートなどもありますから、話を聴き取り、理解できるだけの語学は必要だと痛感しています。若いうちから外国語を身につけておいた方がいいと思います。


高井恵理さん:イメージ4


<プロフィール>

高井恵理(たかい・えり)
管理栄養士/公認スポーツ栄養士
博士(スポーツ科学)
早稲田大学大学院スポーツ科学研究科博士課程単位取得後退学。
2020年度よりJISSの契約研究員として、研究と支援に従事する。
JISSでは、女性アスリートを対象とした研究や、妊娠期・産後期アスリートをはじめとした、さまざまなアスリートに対して、各専門領域と連携しながら栄養サポートに携わる。

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