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校庭緑化の現状と問題点等に関するアンケートの実施

~国立競技場スポーツターフ調査研究チーム~

 国立競技場では、スポーツ施設の充実と効果的運営を図ることを目的に、「スポーツターフ調査研究チーム」(以下「本チーム」という。)を設置し、調査・研究活動を行っております。

 本チームでは、今年度、校庭芝生化をテーマに設定し、校庭緑化(芝生化)を導入された各学校が、維持管理を行う中で抱えている問題点や課題等を把握することを目的として、校庭緑化の取組みを進めている東京都下の各学校に対してアンケートを実施しました。

 今回は、その結果の概要をご紹介することにより、スタジアムの芝生とは目的や用途が異なる学校施設の芝生化について、読者の皆様に理解を深めていただくとともに、全国的に広がりを見せている校庭緑化の取組みについて、問題点や課題等を把握する一助になればと考えています。

調査の概要

 今回のアンケート調査の概要は下図のとおりです。

【調査概要】
■調査目的: 校庭緑化(芝生化)を導入された各学校が、維持管理を行う中で抱えている問題点や課題等を把握する
■調査方法: 調査票によるアンケート調査
■調査対象: 東京都内の公立小・中・高等学校及び特別支援学校のうち、校庭緑化を実施している76校(芝生化面積1,000m2以上)
■調査期間: 平成22年10月15日~11月5日
■調査設問:
  1. 芝生化の時期
  2. 面積(芝生、圃場)
  3. 芝生の種類
  4. 芝生の生育状況
  5. 芝生の維持管理上問題があった際の相談相手
  6. 芝生に大きな部分損傷が生じた際の対応
  7. 維持管理のコスト
  8. 芝生の導入、維持管理について良かったこと、知りたいこと、困ったこと
■回収数: 72校/76校(回収率 94.7%)
■調査協力: 東京都スポーツ振興局ほか関係部局

調査結果

1.アンケート回答から見える主な傾向

 今回のアンケートの回答から、主に次のような傾向が見えました。

  • ノシバ、コウライシバを採用している学校では、生育状況が良くないと答えているところが多い。
  • 維持管理に関する相談相手について、全体的に専門業者との回答が多いが、生育状況が良くないと答えている学校では「内部の人材」の割合が高く、芝種はほとんどノシバ、コウライシバであった。
  • 生育状況が順調と回答している学校では、大きな部分損傷が生じたときの対応に、専門業者だけでなく学校関係者や地域のボランティアも関わっている割合が高い。
  • 生育状況があまり良いとは言えないと答えている学校では、使用頻度が高いことによる維持の難しさを挙げているところが多い。(生育の遅いノシバ、コウライシバを採用している学校がほとんど)

 この結果からは、特に芝種と生育状況の関係や、維持管理におけるボランティア等の協力体制に関して特徴が表れています。

 芝種については、ノシバやコウライシバの場合、生育の早いティフトンなどと比べ、学校活動での使用によるダメージからの回復に時間がかかることから、芝生の使用頻度が多い学校では特に維持管理に苦慮している様子が伺えます。(一方、生育の早いティフトンなどの場合、芝の生育は早いものの、芝刈など管理に要する手間・コストが増えるという課題があります。)

 なお、校庭緑化の導入年度が早い学校は、ノシバ、コウライシバを選択しているところが多く、最近はティフトンの導入が多い傾向にあるようです。

 維持管理については、専門業者に任せるだけでなく、教職員や保護者といった学校関係者、地域のボランティアなどが一体となって協力体制を築き、積極的に補修や管理作業などに関わるような体制が出来ている学校では、生育状況が順調であるという傾向がありました。

芝生の生育状況のグラフ
④芝生の生育状況
維持管理上問題があった際の相談相手のグラフ
⑤維持管理上問題があった際の相談相手

《ポイント》

  • 芝種の選択は、学校での使用状況や管理体制、予算に応じて慎重な検討が必要
  • 芝生の維持管理は、教職員だけで行うのは難しいため、専門業者のほか、多くの方の協力を受けられる体制が望ましい

2.芝生の導入、維持管理に関しての課題

 アンケートの中で「芝生の導入、維持管理について良かったこと、知りたいこと、困ったこと」について自由記述で回答をいただいたところ、各学校で抱える課題として次のようなものが多く挙げられました。

  • 芝生の導入から時間が経過し、当時の経緯が後任の担当者にうまく伝わっていない。
  • グラウンドの使用方法に適した芝生の範囲や管理体制になっておらず、芝生をうまく維持できない。
  • 芝生の状況が良いと答えている学校では、ティフトン又はティフトンにペレニアルライグラスをオーバーシードしているところが多いが、ボランティア等による管理体制や、使用制限を含めた養生期間の確保が必要である。
  • 芝生の維持管理に関する情報がない、管理方法がわからないなど、気軽に相談できる窓口を求めている学校も多い。

 学校に芝生を導入してから時間が経過すると、担当者が異動等で変わることもあり、当時の経過がうまく伝わらず、困ることがあるようです。必ずしも芝生の維持管理に関する知識を有する方が担当になるとは限らず、結果として手探りで維持管理を行い、負担が大きいという回答がありました。

 その結果、芝生の維持管理に関する情報や管理方法に関しての知識を得るための研修会や、相談窓口の整備などの要望につながっているものと考えられます。東京都の場合、管理講習会の開催や技術相談窓口を設置し、校庭芝生化を支援していますので、このような相談窓口の活用や、学校間の連携などについて、さらに環境を整備していくことが求められているのではないでしょうか。

 また、学校の芝生について維持管理上最も悩ましいのは、養生期間をどう確保するかという点のようです。授業やその他の教育活動は年間を通じて行われていますが、休みなく使用した場合、芝生の順調な生育は難しくなり、場合によっては枯れてしまいます。芝生を良好に保つために養生(使用制限)期間を取ろうとすれば、せっかくの芝生に子どもたちが入れないことになります。この点も、多くの学校で維持管理上の問題点として挙げられていました。

 求められる芝生の状況は、各学校の使用目的によって異なると思われますので、どの程度の水準で芝生を維持するのか、そのためにはどのような維持管理や使用制限が必要か、十分見極めることが大切になりますが、その見極めが簡単ではないというところに、芝生維持管理上の難しさがあります。

《ポイント》

  • 担当者が気軽に相談ができる窓口や維持管理に関する研修会の充実が求められている
  • 学校の特性上、使用制限を含めた養生期間の確保に課題を抱えている(良質な芝生の状態を維持するには一定の養生期間が必要)

調査のまとめ

東久留米総合高校の芝:冬場の状況
東久留米総合高校の芝:冬場の状況
(2010年12月1日撮影)
港区港南中学校の芝:冬場の状況
港区港南中学校の芝:冬場の状況
(2010年12月2日撮影)

 今回のアンケート調査を終えて、校庭緑化によって「子どもたちが外で積極的に遊ぶようになった」「怪我が少なくなった」「砂ぼこりが減って苦情が減った」「地域の方とのコミュニケーションが増えるきっかけとなった」等、プラスの効果を感じられていることが分かりました。一方で、芝生の維持管理に手間がかかるため、各学校において様々な苦労をされていることも分かりました。

 芝生を良好な状態で維持するためには、それなりの養生期間を設け、専門業者・学校関係者・ボランティア等が一体となって協力し、維持管理していく体制を作っていくことがポイントのようです。

 また、維持管理に要する経費については、区市町村の財政状況によって差がありますが、多くの学校が将来的に不安を抱えており、芝生の維持管理にはある程度の財政負担を伴うという現実も避けては通れない点であることが明らかになりました。

 調査対象が限定的という点はありますが、本稿で述べたような傾向や課題を多くの学校が抱えていることが示され、校庭緑化の現状と問題点等を把握することができました。

 芝生は生き物であり、維持管理の方法はそれぞれの現場でケースバイケースではありますが、今後も、地域のグラウンドを芝生化した事例等をさらに調査するなど、広く芝生化について調査研究を進めながら、長年スポーツターフの維持管理に取り組んでいる国立競技場の経験やノウハウを活かせるような取組みを検討していきたいと考えています。

 

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