スポーツにおけるけが予防 第3回 スポーツ時の創傷のケアについて
株式会社後楽園スポーツ 堀 裕一
現在、国立霞ヶ丘競技場(体育館、水泳場、トレーニン グセンター)統括マネージャー
創傷とは、何らかの刺激、外力を受けて損傷した状態のことを言い、原因としては、外傷による擦り傷や切り傷、やけどなどが挙げられます。屋内・ 外を問わずスポーツ活動では、熱が入れば入るほど、必然的に創傷する選手が増えてきます。今回はその際のケアについて、私の体験を踏まえてお話をさせていただきます。
先日、娘の幼稚園の運動会の親子リレーに参加したのですが、私は狭いトラックのコーナーで足を滑らせ、体勢を崩してしまいました。そのまま転がっていれば、大した創傷にはならなかったと思うのですが、娘の前で醜態をさらすまいと、右脛で思いっきりブレーキをかけ、踏みとどまりました。幸いにも 後続には抜かれなかったのですが、右脛からダラダラと血が流れていました。私は、大したことはないだろうと高をくくり、患部に水を流しただけで、しばらくの間放置しておきました。
しかし、いっこうに痛みが治まらず、治癒する気配がありませんでした。かさぶたができては裂けできては裂けの繰り返しで、いつまでも患部がジクジクしている状態でした。
病院に行こうか行くまいか決めかねていたある日、家内に※湿潤療法というケアを勧められました。家内は以前指を深く切ってしまったことがあるのですが、医師の勧めで湿潤療法を行い、指を縫わずに2週間で完治させたことがありました。
※ 我々の体は非常に良くできていて、ケガした傷から、傷を治すために必要な成分が含まれた滲出液を作り出します。その滲出液を利用してケアすることを湿潤療法と言うそうです。
従来の消毒+ガーゼ療法の真逆をいくようなケアでしたので、半信半疑でしたが、患部の治りが遅いので、騙されたと思って試してみました。市販されている湿潤療法用の絆創膏を購入し、患部を水できれいにして、その上に貼っただけなのですが、わずか3日ほどで創傷が治ってしまいました。あまりに短期間に治癒してしまったので、さすがに驚きました。
- 具体的なケアについて調べたところ、まず創傷した直後に水で傷口をきれいにします。その後、ラップ等の水を通さないフィルム(市販されている専用の絆創膏が便利です)を創傷部分に当てて、周りをテープでとめ、傷を常に湿らせた状態にします。そうすることで、滲出液が乾くことなく、自然治癒能力によって、短期間で傷を治すことができるとのことです。ただ、気を付けることは、創傷の傷口が深い場合や、感染の恐れがある場合は、当然のことながら 医師の診断を受ける必要があります。
- 創傷は数年前まで、消毒して、ガーゼをして、乾かして、かさぶたにして放置するのが良いと考えられてきましたが、今では前記したように、創傷を密閉して、湿った環境にした方が、治りが早いと考えられるようになったそうです。
- 湿潤療法が叫ばれるようになった近年は、創傷時に消毒液やガーゼを使用しなくなりました。なぜなら、消毒液は殺菌だけではなく傷を治そうとしている滲出液の中の成分も殺してしまい、ガーゼは、通気性が良いため、傷からの滲出液を吸収してしまい、さらにかさぶたを形成させ傷の治癒を邪魔してしまうからだそうです。
湿潤療法は私がそうだったように、まだ半信半疑の方が多いようです。今後皆さんが万が一創傷し、医師から湿潤療法を勧められることがありましたら、湿潤療法も試してみてください。今まで試したことのない方は、その効果に驚くかもしれません。
以上、スポーツ時の創傷対策の参考になれば幸いです。
|