(財)日本ラグビーフットボール協会
© 2009,JRFU NZ代表の戦う前の儀式「ハカ」
10月31日土曜日、東京・国立競技場で世界中が注目する試合「ニッスイ東京2009ブレディスローカップ ニュージーランド代表対オーストラ リア代表」が開催された。
©2009,JRFU
リッチー・マコウ主将 (NZ)
の手によって高々と掲げられた
ブレディスローカップ
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ニュージーランド代表(以下=NZ)は、言わずと知れたラグビー王国。常に世界のラグビーシーンをリードする強国である。対するオーストラリア 代表(以下=豪州)も、NZの好敵手として君臨し、4年に1度のラグビーワールドカップでは1991年、1999年と2度の優勝を成し遂げた強豪である。 宿命のライバルとされる両国の対戦は、1903年8月15日、豪州のシドニークリケットグラウンドで行われた試合が最初とされている。結果は、22-3で N Z が勝利。以降、2008 年まで両国は132回対戦し、NZの88勝39敗5分という記録が残っている。NZは、世界のあらゆる国に勝ち越しているが、豪州はNZが最も多く対戦し た国であり、二国間の交流の密度は際立っている。
その両国が相対する「ブレディスローカップ」は、NZと豪州の定期戦の勝者に与えられるトロフィーのことで、1930~35年に在任したNZ総 督のブレディスロー卿の名前にちなんでおり、同氏が1931年の両国の定期戦に対して寄贈したのが始まり。1931年以降は、この定期戦自体がブレディス ローカップと呼ばれるようになり、現在では世界で最も観客を集めるカップ戦とされている。最多動員数は、2000年7月15日にシドニー・オリンピックス タジアムでの、10万9874人。このブレディスローカップは、毎年数試合が行われ、複数の対戦がある年は勝ち越した側、また同じ勝ち星の場合は保持して いる側が防衛するというスタイルが取られている。本大会は、一昨年まで両国を行き来する形で開催されてきたが、2008年11月1 日、ラグビーの更なるグローバル化に向け第3国で初開催された。これにより両国の世界戦略は加速、昨年の香港に続き、本年、日本で開催される運びとなっ た。
また、今大会は7月28日に決定した「ラグビーワールドカップ2019日本開催記念試合」とされ、日本がワールドカップを開催するにふさわしい 国であることを証明する絶好の機会となった。更に、大会開催に合わせ、ラグビーワールドカップを運営するIRB(国際ラグビーボード)のラパセ会長をはじ め多くの首脳陣を含むラグビーワールドカップリミテッドが来日し、日本協会との会議も予定され、IRBも見守る中での大会となった。
本大会を迎えるにあたり、従来までの日本で行われていた各種大会とは異なる新たな試みも多数導入された。国立競技場のグラウンドレベルに仮設の スタンドを設置(約360席)し、ランチやギフト付の席をプレミアムピッチシートとして7万円で販売するなど、エンターテイメント性の追求と、より多くの ファンの方に御来場いただきたいという集客両面でのアプローチを行った。その他のチケットも、2万円、1万6000円、1万2000円、7000円とい う、世界最高の対戦にふさわしい価格設定を行い発売された。
7月17日から開始されたチケット販売も好調で、早々にプレミアムピッチシートが完売、続いてカテゴリー1、カテゴリー4が完売と、この試合へ のファンの関心がヒシヒシと感じられた。
NZ、豪州の両チームは、10月24日、25日に続々と来日。熱狂的なファンが、空港に駆けつけ世界のラグビーシーンを彩るスターを歓迎した。 翌日から両チームとも31日の試合に向け日本での調整に入った。NZは千葉県・船橋市にあるクボタスピアーズのグラウンド、豪州は東京都・世田谷区にある リコーブラックラムズのグラウンドで練習が行われた。
30日には、プレミアムピッチシートの特典として招待された300名近いファンや大会スポンサーのゲストがスタンドを埋める中、国立競技場で前 日練習(キャプテンズラン)が行われた。
両チームとも滞在期間中は、練習以外にもスポンサー関連の様々なイベントや大使館でのセレモニーなどのチームアクティビティーが組まれていた が、何事にも真摯な姿勢で取り組む選手たちに一流の姿を垣間見た。
ボールを持つのは、世界最高の司令塔と呼ば れる
ダン・カーター(NZ)© 2009,JRFU |
©2009,JRFU
ラグビーの魅力が凝縮された試合だった |
そして迎えた10月31日土曜日。夕闇が迫る頃には、外苑前駅周辺、千駄ヶ谷駅周辺を人の波が飲み込んだ。日本人のファンのみならず、日本在住 の外国人や海外からのサポーターなど国際色豊かな観客が国立競技場に押し寄せ、4万4449人が試合を見守った。
17時30分、テストマッチ独特の緊張感と抑えきれないファンの興奮が国立競技場を包み込む中、夢の祭典がスタート。ゆっくりと国立のピッチに 姿を現した両チームの登場でスタジアムは一気にヒートアップ。両国の国歌の後、NZの戦いの前の儀式ハカが行なわれた際には、地鳴りのような大歓声に包ま れた。
試合は、ラグビー界をリードする両チームの対戦にふさわしい内容だった。下馬評ではNZ優位との噂があったが、やはりこの両国の試合は何が起こ るか分からない。前半20分までは、NZが1本、豪州が2本のペナルティーゴール( 以下=PG)のみの得点に留まり3-6と膠着状態が続いたが、この均衡をNZが破った。豪州陣に入ってのFW・BK一体となった連続攻撃から、この日初と なるトライを奪い逆転、10-6と試合をひっくり返した。対する豪州も積極的に攻撃を仕掛け、34分に右隅にトライを上げるとゴールも決まり13-16と 再逆転に成功。このまま豪州リードのまま前半を終えた。
そして迎えた後半。開始直後からNZが反撃を開始した。5分に相手キックからカウンターアタックを仕掛け、僅かなギャップをついてトライを奪い 主導権を握った。この後トライは生まれなかったが局面局面で優位に立ったNZが4本のPGを決め、最終スコアは32-19として豪州を退けた。
試合後のセレモニーでは、NZのリッチー・マコウ主将により高々とブレディスローカップが東京の夜空に掲げられた。まさにラグビーの魅力が凝縮された至福の時間だった。パス・キックの基本技術の高さ、接点での激しさ、強い精神力等、次元の違うラグビーを見せ られた80分間だった。試合の興奮冷めやらぬまま、彼らは翌日、次の試合が行われる欧州へ旅立っていった。
日本ラグビー界にとって季節はずれのゴールデンウィークとも言うべき怒涛の一週間だったが、NZ・豪州両国は、日本のラグビーファンの心に響く レガシー(遺産)を残してくれた。この夢のような一週間を忘れることはないだろう。
「真のテストマッチ」という新たな刺激を受けた日本ラグビーの熱い冬はまだまだ続く。
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