成長期における医・科学サポートプログラム
概要
個別サポートプログラムでは、女性ジュニアアスリート(9歳~18歳)のうち、オリンピック種目のNFから推薦があった16名に対して、申請内容等を支援部会で検討し、支援対象者が決定しました。運動器メディカルチェック、トレーニング、栄養、心理、各分野間で連携を取りながら、サポートを総合的かつ継続的に実施しました。
【各プログラムの概要】
- 個別サポートプログラム
- 集団サポートプログラム
- 女性ジュニアアスリート指導者講習会
1. 個別サポートプログラム
実施内容
支援対象者16名
指導者、保護者に対し、現在の状況や希望する支援内容等のヒアリングを実施しました。
カテゴリー |
競技系 |
人数 |
【全分野】
運動器メディカルチェック/
トレーニング/心理/栄養 |
氷上系 |
3 |
【3分野】
運動器メディカルチェック/
トレーニング/心理 |
記録系 |
3 |
【3分野】
トレーニング/心理/栄養 |
氷上系 |
3 |
格闘技系 |
1 |
雪上系 |
1 |
【2分野】
トレーニング/心理 |
記録系 |
1 |
【2分野】
トレーニング/栄養 |
氷上系 |
1 |
【2分野】
栄養/心理 |
標的系 |
1 |
栄養 |
標的系 |
2 |
(1)運動器メディカルチェック
トレーニングに支障をきたすような運動器の問題はないか、トレーニングを行う上で注意すべきポイントは何かを確認した結果、トレーニングで解決できる問題が抽出できました。整形外科医より抽出された問題についてトレーニング指導員へ申し送りを行い、トレーニング計画に活かせるように連携を取りました。
(2)トレーニング
運動器メディカルチェックの内容を考慮したトレーニングプログラムを作成し、サポートを実施しました。
ヒアリングでは主に、今後の試合スケジュール、普段の練習スケジュール・内容、トレーニング実施歴・内容、今シーズンの目標及びトレーニングに対する要望を聞きました。平成28年度から継続のアスリートには平成28年度の反省点やより良いトレーニングサポート実施の為の意見を聞きながらサポートを実施しました。
(3)栄養
このプログラムでの栄養サポートはアスリートにとって必要なエネルギー・栄養素を摂取できる知識、適正な食習慣を身につけることで競技力向上と正常な発育発達を促すことを目的としました。また、アスリートだけではなく家庭生活での食事準備を担う保護者へのサポートを実施しました。
個別栄養サポートの実施は以下の流れで行いました。(対象: 支援対象者・保護者)
①ヒアリング(現状把握、要望確認、問題点の抽出)
②1回目(食事調査・身体組成測定)
③2回目(栄養サポート計画立案、食事調査結果報告、アスリートのための栄養教育)
④3回目以降(身体組成測定、栄養カウンセリング、食事選択実習)
栄養サポートは他分野と連携を行いながら、支援対象者の食事摂取状況や栄養・食事に対する理解度に合わせてアドバイスし、食事選択実習も行いました。
(4)心理
心理サポート(心理カウンセリング、メンタルトレーニング)は面接の枠組み(決められた場所、時間、頻度)を大切にしながら、以下の手順で実施しました。
①ヒアリングの実施(サポートに対する要望の聴取と確認)
②インテーク面接(支援対象者が抱えている問題(主訴)の把握と、それに対してどのようなサポートを行ったらよいか見通しを立てるための最初の面接)
③心理アセスメント(心理的競技能力診断検査、風景構成法を、面接開始の早い段階で実施。年度途中より箱庭を面接室に導入、継続面接の中で自己理解を深める一つの手段として活用)
④サポート担当者の決定
⑤サポートの実施と振り返り
得られた成果
(1)トレーニングサポート
平成28年度から継続のアスリートは高校生や大学生が多く、平成28年度に得たトレーニングの知識、方法をセルフトレーニングに活かしている様子でした。そのため、継続でサポートできた選手は、基礎筋力が向上しプログラムの内容がレベルアップしました。また、競技とトレーニングの結びつきを理解している発言も多くなっていたと感じました。平成28年度同様、日ごろからトレーニング習慣がなくトレーニング経験が浅いアスリートも多くいましたが、その中でも日ごろセルフで継続可能なウォーミングアップのプログラム等を地道に実施してきたアスリートは、柔軟性、可動性の向上につながりました。サポートでの筋力強化プログラムがスムーズに進み、競技成績が向上したアスリートが数名いました。トレーニング経験が少ない分トレーニングを積むことで感覚の変化も大きく感じている様子でした。
(2)栄養サポート
期分けに応じた食事管理、環境の変化に合わせた食事管理ができるよう、基礎知識の定着、その知識を活かした応用力を身につけられることを目的に、面談や食事選択実習を実施しました。サポート頻度の多かったアスリートは体組成の変化と食事内容の変化を感じることができ、食事管理のモチベーションも高くなりましたが、サポート頻度の回数が少なかったアスリートは知識の定着は一部できたが応用力を身につけるまでは至りませんでした。断片的な知識しかないアスリートが多く、体系的な栄養の知識を提供することで、成長期女性アスリートにとって、体の変化や競技特性、環境の変化を踏まえた適切な栄養についての知識を与えられる機会となりました。
(3)心理サポート
試合の振り返りや試合前の気持ちの準備、練習環境、指導者及びライバルとの関係、進路について家族との関わり方をテーマとして扱いました。
心理面接を通して、アスリート本人が自分自身を振り返り、向き合うことで、自分が抱いていた思いや考えを整理する時間となり、その結果競技に目的意識を持って取り組めるようになり、落ち着いた気持ちで臨むことができるようになっていました。
メンタルトレーニングに取り組んだことのないアスリートにとっては、それほど意識せずにやってきた競技への取り組みを視覚化することにより、自身の課題が明確になることもありました。成長過程のアスリートにとって、今後競技生活を続けていく中で必要なときに心理サポートという支援があることを伝えていくことができました。
今後の課題
各分野の専門スタッフ間で連携を取りながらサポートを実施していましたが、今後サポートする上で、競技団体の担当者やコーチ、保護者と定期的に情報共有ができるような体制を作る必要があると考えます。
2. 集団サポートプログラム
実施内容
集団サポートプログラムでは、女性アスリートの成長期における心身の変化に対し、アスリート自身、保護者、スタッフ等が柔軟かつ継続的に対応できるような知識を提供し、アスリートの充実した競技生活へ繋げることを目的として実施しました。
平成29年度は、集団サポートの対象団体をNFへ広く呼びかけ、対象団体を選定しました。成長期女性アスリートのみで構成されるオリンピック競技種目のチーム又は団体、同年代の全国大会レベルのチーム又は団体といった条件を全て満たし、NFから推薦のあった球技系3団体を支援対象としました。
(1)講習会の開催
講習会では選手及び指導者等に知識を習得させること、得られた知識を各所属チームに戻り、主体的に活用することを目的としました。各講習会概要は下記の通りです。
|
時 期 |
場所 |
対象 |
人数 |
講義プログラム |
1 |
9月 |
愛媛 |
アスリート、保護者、指導者、関係者 |
34 |
婦人科、トレーニング、栄養、心理 |
2 |
11月 |
愛媛 |
アスリート、保護者、指導者 |
52 |
婦人科、栄養 |
3 |
11月 |
東京 |
アスリート、指導者 |
53 |
婦人科 |
4 |
1月 |
長崎 |
アスリート、保護者、指導者 |
43 |
女性スポーツ全般 |
5 |
3月 |
兵庫 |
アスリート、指導者 |
21 |
心理 |
(2)トレーニング
課題に対するトレーニングプログラムの作成、トレーニングの実践指導、トレーニングに関するアスリートへの講義、スタッフとのディスカッション等を実施しました。
(3)心理
自分について考え、感じ、知ることで自己理解を深め、主体的に物事に取り組めるよう、アンケート調査や心理検査の実施、全アスリートとの個別面談、講義といったサポートを、地域連携を進める形で、地域の医師・臨床心理士・精神科認定看護師・精神保健福祉士等と協力して行いました。
(4)栄養
栄養に関する基礎知識の定着と応用力を身につけることを目的に講義、グループワーク、実習、知識チェックテストを定期的に実施し、実践できる知識の定着を目的にサポートを行いました。サポートが継続できるよう、地域の管理栄養士と共に講義の目的・構成・実施を行いました。
得られた成果
(1)講習会の開催
講義内容の要望として、女性アスリートの三主徴、婦人科疾患、月経周期、基礎体温の付け方、無月経と疲労骨折、怪我の予防、栄養での実践力、睡眠状況の改善に向けた取組み等が挙げられました。講義終了後に個別に質問できる時間を設定し、積極的に質問がなされていました。親子講習会では父親の参加もあり、保護者にとっても意義のある機会となり、女性特有の課題について両親で取り組めるような家庭教育の機会が創出できました。
(2)トレーニング
課題に対するトレーニングプログラムをスタッフとのディスカッションを重ねながら、対象団体の競技環境に合わせた形で作成できました。また、トレーニングプログラムを介入してからのフィジカルテストの記録が向上しました。
(3)心理
アンケート調査や全アスリート個別面接を複数回実施することにより、身体的・精神的健康状態、競技・学校・自宅等の生活で感じる様々な困り事、相談できる場所としての心理サポートのニーズ等について、経過を把握でき、また指導者等と情報共有することで、アスリートの心理状態や関わり方等について協議することができました。全ての活動を地域スタッフと確認しながら協働できたことは、今後、地域が中心となる活動への足がかりとなりました。
(4)栄養
調理実習、グループワーク及び宿題を通して、知識だけでなく実践力を身につけることができました。また時期に合わせた講義を行うことで、身体づくり、競技のための食事とアスリートの理解、意欲を深めるきっかけとなりました。地域の管理栄養士やスタッフとの連携は、アスリートの課題解決と保護者へ向けた情報提供の仕組みづくりとなり、今後も地域スタッフで栄養サポートを実施できるプログラムとなりました。
今後の課題
講習会では「複数回受講してより深く理解がすすんだ」といった意見を伺い、アスリートや保護者に対する指導の積み重ねが重要となり、講習会の継続性が課題として挙げられました。各分野のサポートでは、スタッフとディスカッションを重ね、対象団体の状況を十分に考慮したプログラム内容となるよう柔軟な対応が求められました。今後も全員に対する個別の評価、年間プログラムの一貫としたスケジューリング、講習会や保護者への啓蒙活動で知識や情報の提供を行っていく必要性があります。また、長期でサポートを継続した場合の変化を追えるよう、地域スタッフでのサポート体制の構築・継続が必須でした。2年間通して集団サポートプログラムを実施しましたが、サポート実績回数が限られ、講習会における講師派遣が妥当であり、今後実施する際の留意点が整理できました。
3. 女性ジュニアアスリート指導者講習会
実施内容
JISSでは成長期の医・科学的課題の解決に向け、成長期に起こりやすい各種障害についての理解を深めると共に、障害防止の一助とし、より効果的なサポート活動の実現を目的として、女性ジュニアアスリート指導者講習会を開催しています。9歳~18歳位の女性ジュニアアスリートに関わる指導者、スタッフ及び関係者を対象として、小児科、栄養、婦人科、コンディショニング、心理、外傷・障害、トレーニング等の講座を実施しています。平成29年度はスポーツ庁からの依頼により、広く地方の指導者へ知識を浸透させるという目的を着実に達成するために、例年の東京開催に加えて地方へも赴き、講義を行いました。実施した講習会は下記の通りです。
|
時期 |
場所 |
人数 |
第1回 |
7月 |
北海道 |
35名 |
第2回 |
9月 |
福 岡 |
23名 |
第3回 |
10月 |
広 島 |
27名 |
第4回 |
10月 |
宮 城 |
19名 |
第5回 |
12月 |
東 京 |
1日目 111名
2日目 103名 |
第6回 |
2月 |
東 京 |
1日目 36名
2日目 39名 |
得られた成果
アンケートでは「具体的な症例を多く挙げていただきわかりやすかった」「新しい知識を得ることができた」「今後の指導現場の参考にしたい」「保護者との協力方法、アスリート自身にも考えさせる必要性があることがわかった」「講座にそれぞれ関連性があった」等のコメントをいただき、参加者には概ね満足していただけました。また、質疑応答時や講義後の休憩時間に参加者から講師へ積極的な質問があり、活発な意見交換ができました。巡回サポートでは連携に関する内容やグループワークを行い、東京会場では栄養や心理講義に連携の内容を取り入れ、1事例に対し包括的に行ったサポートの取組が紹介できました。
JISSホームページからダウンロード可能な「成長期女性アスリート指導者のためのハンドブック」と平成27年6月に実施した指導者講習会の「ストリーミング配信」を必ず確認してから受講するよう開催要項等の備考欄や参加確定メール等に記載した結果、昨年度よりページビュー数が大幅に増えました。殆どの参加者が「ハンドブックやストリーミング配信を以前から知っていた、もしくは今回の講習会で知った」とアンケートでの回答を得ました。
今後の課題
第5回で定員を超える多数の申込みを頂いたため、第6回を追加で開催しました。今後も普及方策については、引き続き検討が必要となります。事後アンケートでは、講義内容、会場案内や時間設定、資料提供の工夫等、講習会を企画する段階で考慮すべき点が挙げられました。
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