今後既存サポートの枠組みの中で妊娠期・産後期アスリートを受け入れる体制を構築していけるよう、各分野既存サポート事業の中でサポートを実施しました。産後評価の結果や選手のニーズに合ったサポートの実施に向け、各分野が連携を取りながらプログラムを作成しました。また、今後に向け、妊娠期・産後期の評価・サポート方法の検討・まとめを行いました。
サポート事例のまとめとして、これまで妊娠期・産後期トレーニングサポートプログラムの支援対象者9名にインタビュー調査を実施し、調査内容を冊子に掲載しました。妊娠期・産後期は個人差もあり、評価をした上でのサポート方法の検討が重要です。また、選手からもサポートを受けた感想や将来的に妊娠出産子育てと競技との両立を望むアスリートに向けて、コメントをいただきました。産後に継続して活躍している選手の事例を蓄積することで、現在活躍している選手にとってライフキャリアの選択肢を広げていただきたいと考えています。
■事例調査
調査内容は、妊娠期、産前・産後期の状況、実施していたトレーニング内容、身体の変化、当時の育児環境、サポート状況、子供との関係、必要性を感じたサポート内容、現在の状況についてです。本調査の内容も冊子に掲載しました。
課題と今後の方向性
本事業終了後は既存サポートの枠組みの中で妊娠期・産後期アスリートを受け入れる体制を構築していく流れにあり、各分野が連携できる体制整備が必要となります。定期的なミーティングにより、選手に分かりやすく簡潔に伝えられるような書面やデータによるフィードバック方法や他分野のスタッフとの情報共有や連携が求められます。国内・海外で産後のスポーツへの参加に関する情報収集と比較検討では、HPSCで行っているアプローチが適切かどうか、更に改善するにはどうしたらよいのか、事例を直接見る、聞く、ディスカッションの機会創出などの情報収集を継続して行い、それらの周知についても検討する必要があります。
パラリンピック競技選手に対する出産後のトレーニングサポート方法についても今後需要が高まると思われ、検討を継続していきます。サポートを受けてもトレーニングの成果を出す事が期待できない可能性もあるため、今後はオリンピック競技だけではなく、パラリンピックの競技団体とも連携を図っていくことが望まれます。
2.地域連携ロールモデルプラン
目的・背景
これまで11名の女性アスリートを支援対象として、妊娠期・産後期トレーニングサポートプログラムを実施してきました。支援する中で、妊娠、出産、育児から円滑な早期競技復帰には、産後評価、多分野連携、支援体制の整備(託児室、育児サポート)が重要であることが分かりました。産後競技復帰を目指し、本事業の支援を希望しているにも関わらず、地理的な関係からHPSCでの支援を受けることが難しい選手が存在し、本人と所属先より相談を受けたことから、令和元年度より地域連携ロールモデルプランを実施してきました。令和2年度は、HPSCと同じような体制を地方自治体、各競技団体、地域スポーツクラブ等で実施できるよう、妊娠期・産後期アスリートの評価サポートマニュアルを活用した伝達研修の内容について、地域連携ロールモデルプランを実施する団体に視聴を依頼しました。
実施概要
NFや地域の特性に合わせた妊娠期・産後期トレーニングサポートプログラムを実施しました。妊娠期・産後期アスリートの評価方法や支援体制等をパッケージ化し、他の組織で実施しました。対象選手の所属するNFの指導の下、勤務先、所属チーム、チームの所在地方自治体、地域の専門家(婦人科医、理学療法士、管理栄養士、スポーツメンタルトレーニング指導士等)が連携を図り、スポーツメディカルセンターの専門スタッフから伝達を行いました。伝達を受けた地域の専門家が、対象選手の活動拠点で競技復帰への支援を行い、モデルケースとしてその経過をモニタリングしました。地域連携ロールモデルプラン支援対象者は4名でした。
得られた成果
支援体制の持続可能性を鑑みつつ、遠隔者へのサポートとして伝達を実施することができました。本事業を地域に伝達するにあたり、対象選手やスタッフに希望や意向を聞き、スポーツメディカルセンターの専門スタッフより地域スタッフへ身体機能評価やトレーニング内容や実技の伝達を行いました。コーディネーターが主導で介入時期や方法を決めることが、個々の実態に応じた受け入れ体制の整備に繋がりました。地方在住の選手の環境整備ができていない例もありましたが、近郊の大学病院やJOC医学サポート委員の専門家と連携を図り、今後地域でのサポートが広がるよう伝達機会を創出することができました。
課題と今後の方向性
競技復帰までの経過で、所属チーム、NF、都道府県協会、都道府県体協、勤務先、地方自治体、大学、病院等と連携して、女性アスリートの個々に応じた支援体制の構築が求められます。妊娠期、出産後は所属チームの拠点と離れて過ごす選手もおり、HPSCのように各分野の専門家が同じ場所にいる訳ではないため、分野によっては専門家を探す事に苦慮しました。こうした場合は、統括する団体等に問い合わせることや、近隣の地域も視野に入れて探すべきであり、事例によっては事前に時期を決めて、地域のスタッフとスポーツメディカルセンターの専門スタッフで定期的な情報交換や連絡を取り合うことも必要です。令和元年度作成のマニュアルのみでは、産後の身体特性に合わせた個々のサポートについて伝えきれない情報も多くあるため、引き続き多くの地域・カテゴリーで妊娠期・産後期のサポートができる環境づくりが望まれます。また、現在は一律のパッケージとして地域へ展開しているが、今後は競技特性や個別性に合わせた伝達を行っていく必要もあり、特別な環境整備や技術習得を要しない評価方法を検証していくことが望まれます。
3.伝達講習会の実施
目的・背景
令和元年度より、妊娠期・産後期アスリートの評価方法や支援体制等をパッケージ化し、NFや地域の特性に合わせた妊娠期・産後期トレーニングサポートプログラムを実施してきました。対象選手やサポートスタッフの希望や意向を聞きながら、内容を共有し、実技も含めて直接伝達ができたが、評価内容の選定、評価技術の習得等が課題であることが分かりました。今後、所属チーム、NF、都道府県協会、都道府県体協、勤務先、地方自治体、大学病院等に広く周知をしていく必要があるため、妊娠期・産後期トレーニングサポートプログラムの関係者を対象に伝達講習会を実施しました。本講習会では評価サポートマニュアルの内容を詳細に配信し、課題点等のご意見をいただくことを目的としました。
実施概要
本講習会は1か月間のオンライン配信で実施しました。講習会の参加対象者は、①妊娠期・産後期におけるトータルサポートに携わるスタッフ(産婦人科医、整形外科医、理学療法士、トレーニング指導員、心理及び栄養スタッフ)、②地域連携ロールモデルプランに携わる支援スタッフ(産婦人科医、整形外科医、理学療法士、トレーニング指導員、心理及び栄養スタッフ、指導者等)、③女性アスリート支援プログラムに携わる関係者等としました。講習会の内容は、令和元年度に作成した「妊娠期・産後期アスリートの評価サポートマニュアル」をもとに、婦人科、機能評価、トレーニング、心理、栄養分野における評価・サポート内容、支援対象アスリートのトークセッションとし、動画閲覧後にアンケート調査を実施しました。
得られた成果
本講習会では、評価マニュアルを動画にまとめ、遠隔のスタッフ含め幅広く伝達することができました。サポート内容について、特に身体機能評価では評価項目が多いこと、エコーを使用する評価項目もあるが、必ずしも地域のサポート環境にエコーが使用できる状況ではないということを鑑みて、本講習会では、評価項目を選定し誰もが評価しやすい内容にまとめました。また、選手のトークセッションではサポートを経験したからこその意見や感想をいただき、今後のサポートにも繋がる内容が得られました。
課題と今後の方向性
妊娠、出産を機に競技の継続を諦めてしまうケースも多く、妊娠、出産を経て競技復帰をすることが如何に大変であることが分かります。また、競技レベルによってサポートを受けられないというケースもみられます。本講習会の動画を広く周知し、所属チームやNFのスタッフ等がサポート内容を少しでも知ることができれば、選手が競技を続けられる可能性にも繋がると考えています。また、競技レベルに関係なく本動画を閲覧できるように、本事業専用ページで配信してく準備をしていきます。今回は、本事業で行っている支援サポートの体制づくり、各専門分野のサポート内容が中心でしたが、今後は地域でのサポート体制の事例をまとめオンラインで配信することが必要であると考えています。
子育て期における育児サポートの環境整備(再委託)
目的・背景
育児サポートプログラムは、子育てを行いながらトップアスリートとして競技を継続できるよう、アスリートの競技環境を整備することを目的としています。これまで休日練習、大会、合宿での遠征等は、普段の保育園では対応できない場合が多く、また合宿会場や大会会場でも、託児室の設置といった施設環境が整っていないといった現状があり、このような課題解決へのアプローチとして、本事業では育児にかかる経費の一部を負担してきました。
実施概要
NFやスポーツ団体等が作成した実施計画書の内容により再委託するかを決定しました。競技団体が実態にあった育児サポートを企画することにより、競技団体の状況に合わせたサポートが可能になると共に、競技団体が主体となって選手及びコーチの育児サポートを実施する際の課題等を明確にすることが可能となりました。以上のことから、令和2年度の育児サポート再委託先は3団体でした。
得られた成果
練習場の育児環境整備など事業終了後も見据えて競技団体に再委託を実施したことで、プログラムの還元及び普及につなげました。四半期ごとに進捗を確認し、再委託先の成果報告は2月~3月に行いました。
課題と今後の方向性
引き続き「切れ目のない支援」となるよう、妊娠期、産後期、子育て期を包括的にサポートできるよう実施していきます。各競技団体、スポーツ団体、関係者等にノウハウを伝達しながら、「自立したサポート環境の整備」を通して、育児サポートの重要性及び有用性の認識を促して働きかけていきます。
女性特有の課題解決に向けた知見の展開
【各プログラムの概要】
1.ネットワーク会議
2.カンファレンスの実施
3.ホームページ等による情報発信
1.ネットワーク会議
調査研究受託団体間の情報共有とネットワーク強化を目的に、ネットワーク会議をオンラインにて開催しました。平成25年度から令和2年度までの間に、スポーツ庁より女性アスリートの戦略的強化に向けた調査研究を受託した団体の主担当者又は副担当者等が23名参加し、各調査、研究の情報共有、研究成果の現場への還元方法や今後のネットワーク強化に向けた意見交換を行いました。
2.カンファレンスの実施
女性アスリートを取り巻く課題を研究者と参加者が共有すると共に、プロジェクトで得られた知見や方策を競技現場へ広く還元することを目的として、オンラインでカンファレンスを開催しました。3月8日は世界が女性について考えようという、国際連合が定めた「国際女性デー」とされており、今年度のテーマを「リーダーシップを発揮する女性たち:コロナ禍の世界で平等な未来を実現する」と掲げています。そこで「コロナ禍、大学生アスリート、自立」をキーワードとして、今一度女性アスリートが抱える課題や求められている支援について考える機会を提供し、女性アスリートには自分自身の心身を見つめ直すきっかけとなり、競技関係者等にはそのようなアスリートの気づきを促進し、支援する機会を創出することにしました。大学時代は自立が求められ、心身共に不安定な時期を迎える場合もあります。一方、大学教員という研究者が身近に存在しており、4年間をかけて競技生活と学問を両立することで視野を広げ、スポーツ界や社会を俯瞰的に捉えて行動できる女性アスリートを育成できる時期でもあると考えています。
開催概要
■テーマ
スポーツにおける「個」・「孤」からの気づき~新型コロナ禍をきっかけに~
■日時
令和3年3月8日(月)13時~16時
■場所
オンラインによる開催
■対象
アスリート、指導者、競技団体関係者、女性アスリートの育成・支援に関心のある者 388名
■内容
【基調講演】「個」「孤」と群
【カンファレンス1】「個」への気づきを促すアプローチ
【カンファレンス2】「孤」をつなぐ
【研究一覧(オンライン展示)】各団体の研究成果を特設ページで紹介し、資料のダウンロードや、各団体の
担当者とメッセージのやり取りを行いました。
【情報交換会】Zoomのブレイクアウトルームを使用し研究者と参加者が直接交流する時間を設定しました。