R3年度 サポートプログラム

ICTを活用した女性アスリート相談体制の充実

目的・背景

 多くの機関・団体が女性アスリートに関連する研究・支援に取組んでおり、より効果的な支援を展開していくためには、各機関・団体間のネットワーク並びに連携体制を強化する必要があります。女性アスリートの戦略的強化に向けた調査研究の受託者等と連携し、今後より一層の女性アスリート専用相談窓口の拡充が求められています。これらの背景のもと、女性アスリートの問題解決を目的として、既存の電話相談窓口の形態を変更し、機能の拡充を図り、JISSスポーツメディカルセンターのスポーツクリニック内に設置されていた「女性アスリート電話相談窓口」を廃止し、平成30年8月にJISSホームページ上にメールフォームでの「女性アスリート相談窓口」を開設しました。電話相談窓口の受付時間が、選手の練習時間である平日昼間でありアクセスしにくいこと、海外遠征が多い選手は海外から電話をかけにくい、ハラスメントや人間関係の悩み等、直接電話では話しにくいのではないか、という理由から変更しました。機能の拡充については、メール相談への変更によって上記の問題の解決を図る事、メールフォームをHP上に設置し、直接入力送信できるようにしたこと、があげられます。

 また、女性アスリートが抱える問題として、ホルモンの変動に伴うコンディションの変化、月経困難症、月経前症候群、出産前後の体重管理等があげられます。これらの対策として、基礎体温、体重、症状等を継続して記録することは、日々のコンディショニングを考える上で重要となります。これらを記録し、専門家がフィードバックする、LiLi女性アスリートサポートシステム(以下「LiLi」という)を構築してきました。これまでもJISS既存のコンディショニングシステム「AthletesPort」と、LiLiを連携させることで、利便性の向上を図ってきました。その上で、より汎用性の高いコンディショニングアプリとして今後も継続して運用できる方法を検討しました。また、LiLiのこれまで積み上げてきたサポートデータを集約し、今後活用可能な資料を作成することとしました。

実施概要

 相談メールは週1回担当看護師が確認し、JISS内の各部門担当者のコメントやJISS及び外部機関の紹介等の内容を1週間以内に返信しました。また、メールフォームからの相談以外に、女性支援担当スタッフが個別に受け、対応した相談についても件数としてカウントしました。

女性アスリート相談窓口URLは下記のとおりです。

女性アスリート相談窓口
女性アスリート相談窓口

 LiLiについては、現在、様々なコンディション管理ツールが存在することも踏まえ、より利便性を高めることで利用者の拡大を図りました。

得られた成果

 昨年度と同様に、一昨年までと比較して相談件数が少ない状況ですが、その理由としては、新型コロナウイルス感染症流行で選手の活動が縮小している影響、相談を介さず直接婦人科を受診する選手が増えている現状、地域にアスリート外来等を設置する婦人科が増えていること等が考えられます。

 LiLiのアクティブユーザーからは「自分で体重、体温、生理周期など確認でき、コンディショニングにとても便利である」、「全項目を1つのグラフで確認できるので見やすく分かりやすい」、「すでに自分で記録を付けているから、それにプラスは面倒である」という意見を得られました。

 また、利用者拡大に向けてITグループと連携し、JISS既存のコンディショニングツールであるAthletesPortとの連携を図りました。AthletesPortのLINEアカウントと連携させLINEからの入力を可能とし、利便性を向上させ機能充実を図り、コンディションアプリとして今後も継続して運用できる体制を整備しました。LINEからの入力が可能になったことにより、新たな利用者が増加することを想定し、LiLiの入力項目の説明とコンディショニング管理の意義をまとめたマニュアルを作成しました(LiLiマニュアル)[PDF:657KB]。また利用者への情報発信ツールとして、LiLiのこれまでのサポートデータを集約しQ&AやAI分析結果を掲載したデジタル資料を作成しました(LiLiデジタル資料)[PDF:1,301KB]。これらの資料を利用して、コンディショニング管理の重要性を発信することが可能となりました。

 東京2020大会の主な成果として、トップアスリートの月経周期の把握や月経不順対策、ピル服用による調整等が進んだことが明らかとなりました。海外遠征や活動拠点が地方の選手等への対応は、メール相談窓口等の設置により、トップアスリートのサポートができました。

今後の課題

 多様化、複雑化した相談内容についても、引き続き女性アスリート相談窓口を運用して対応していきます。今後も多分野や他機関との情報共有、連携を密にして相談支援を行う必要があります。都度ログインして開くのが手間であること、既に使用している他のコンディショニングアプリと別に入力するのが面倒である等の声があります。女性特有の課題を抱えたアスリートにとって機能的に優れているというLiLiの最大の特徴を活かしつつ、利便性を向上させ、今後も利用者の拡大と機能の充実を目指します。今後も女性アスリートの健康問題を解決する情報を整理し、引き続き有効活用の方策を検討していきます。

成長期における医・科学サポートの実施

【各プログラムの概要】

  1. 教育コンテンツの作成
  2. 講習会の実施

1. 教育コンテンツの作成

目的・背景

 平成25年度に、競技団体等が開催する講習会や指導現場で活用することを目的としたテキスト「成長期女性アスリート指導者のためのハンドブック」(以下「ハンドブック」という)を婦人科、整形外科、栄養、心理及びトレーニング各分野の専門スタッフにより作成しました。JISSで得られた知見やノウハウを更に広く一般に向け、効果的・効率的に普及するため、本プログラムで開催してきた講習会の様子をストリーミングにて配信してきました。また、ストリーミング配信等の活用や更に広く周知するために、教育コンテンツの周知に努めました。NFや地域等の指導者がそれぞれに見合った独自の講習会を開催し、学んだ知識の伝達を担う必要があると考えています。

実施概要

 成長期の女性アスリート等が身近に教育コンテンツに触れ、基礎的な情報について学ぶことができるよう、講習会を通じて収集してきた知見を集約した教材を作成しました。教育コンテンツの内容は、ライフプランを見据えた成長期アスリートの健康に関する知識をまとめました。更に、閲覧者が必要な情報にたどり着きやすくなるように、各講義内容のチャプターをつけて分割しました。

得られた成果

 成長期の女性アスリート、指導者、保護者が抱えている課題、必要としている情報を集約したことにより課題が明確となりました。課題として多く挙げられたことは月経中のコンディショニング管理であり、併せて投薬等のコンディション調整の方法に関する情報の周知も必要としていることが分かりました。月経に関する課題を軸に、二次性徴から妊娠・出産まで女性アスリートが抱える課題を包括的に集約し、成長期から未来のライフプランを考えるきっかけになる教材を作成できました。

今後の課題

成長期ジュニアアスリートに必要な知識を広く浸透させる普及方策は、ホームページでのストリーミング配信や教育コンテンツのポスター掲示板、冊子を設置したことにより浸透されています。一方で、女性アスリートに関する情報は日々更新されているため、発信する情報を精査し、目的に合わせて更新していくことが必要です。今後は、指導現場での教育コンテンツの活用方法や教育コンテンツを通じて選手たちがどの程度理解し、選手生活に落とし込めているかを地域で支援方策を検討することが課題となります。

2. 講習会の実施

目的・背景

 成長期(9歳~18歳程度)における女性アスリート等を対象として、女性ジュニアアスリート及び保護者のための講習会、女性ジュニアアスリート指導者講習会を実施してきました。成長期に起こりやすい各種障害について理解を深め、効果的なサポートを実現するための学習の場を提供することや、成長期における心身の変化に対し、アスリート、保護者、指導者等が柔軟にかつ継続的に対応できるような知識を提供することで、より充実した競技生活へ繋げることを目的として実施してきました。

実施概要

 ライフプランを見据えた女性アスリートの健康に関する教育コンテンツを専用ページにアップロードし、動画配信によるオンライン講習会を実施しました。HPSCを利用する成長期アスリート及び保護者25名、指導者116名を対象に、令和3年12月3日~令和4年1月31日まで現場へ展開しました。

得られた成果

 団体スタッフより、講習会を受講したアスリートが将来指導者になった時や知識として知ってほしい内容であるため、成長期の男子アスリートも対象にしてほしいという要望があり、男女問わずに成長期アスリートを対象にオンライン講習会を実施しました。競技現場や家庭でフラットに話し合えるきっかけになるように、選手の保護者、指導者へも講習会の周知をしました。また、それぞれの指導現場での活用を目的として、指導者へ周知することができました。講習会の開催や教育コンテンツを配布したことにより、成長期アスリート、指導者、保護者への教育啓発を行い、支援体制を整えることができました。さらに、心理的・肉体的に大きく変化する成長期アスリートに必要な情報を広く一般にも公開できました。

今後の課題

 コロナ禍の影響により、オンライン講習会の需要は増加すると考えられます。オンラインでの講習会は多人数に周知することが可能ですが、アンケートを実施してのフィードバックや、教育コンテンツを利用してオンライン講習会を実施した団体の追跡調査等を実施する必要があります。また、NFや地域等で講習会を実施するためのノウハウや教育コンテンツは充実しているので、それらを広く発信するためにもホームページでの公開は急務であると考えます。

妊娠・出産を経て競技復帰を目指すアスリートへのトータルサポート

【各プログラムの概要】

  1. 妊娠期・産後期トータルサポート
  2. 地域連携ロールモデルプラン

1.妊娠期・産後期トータルサポート

目的・背景

 一般的に、出産後は出産前と比較すると体力が著しく低下するケースが多く、アスリートにおいてもそれは例外的ではありません。出産後の女性がトップアスリートとして国際大会で活躍できるレベルを目指すためには、一般のアスリート以上に競技に集中できる環境を整備する必要があります。妊娠期間と分娩による大きな身体変化に伴い、出産後の選手には腰痛や骨盤帯痛、恥骨部痛、尿失禁等が引き起こされる可能性があります。また、長期間練習及び身体鍛錬的トレーニングを実施していなかったことによる筋力低下も見受けられます。栄養では妊娠期・授乳期・産後の競技復帰を目的とした栄養摂取についての知識を持っているアスリートは少ないです。妊娠期は胎児自身や胎盤、羊水、出産に備える母体の血液増加や組織量変化に伴い体組成の変化があります。またアスリートにおいては妊娠期にトレーニング量が減少することによる体組成の変化も考慮する必要があります。また競技復帰に向けた体組成の変化と共に、育児・授乳をしながら食事を調整・管理していくことが難しいです。このような身体トラブルを抱えている中で、非妊時と同様の練習・身体鍛錬的トレーニングを行う事は早期競技復帰に役立つとは考えにくく、むしろ遅延させていきます。そのため、早期競技復帰を目指していく上で、まずは妊娠・出産による不定愁訴及び筋力低下を改善していく必要があります。

実施概要

 出産後、競技に復帰し、国際大会を目指す女性アスリートのうち、NFから推薦のあった者を支援対象とし、機能評価・トレーニング・栄養・心理分野におけるサポートを1名に実施しました。
 産科主治医よりトレーニング開始の許可を得た後、評価・サポートを実施しました。医師によるメディカルチェックでは理学療法士やトレーニング指導員も同席し、担当医師と一緒に問題ないこと確認して評価・トレーニング指導を行いました。産後は、整形外科医による診察(骨盤部のMRIを撮像及びそのフィードバック)も実施しました。

 身体機能評価の内容は、問診と触診・視診・超音波画像診断装置を用いた体幹深層筋の評価でした。評価結果から得られた問題点と、どのように問題を改善させるか、そして適切と考えられる運動内容と負荷設定について随時トレーニング指導員と情報を共有しました。今後のサポート継続と充実化を目的として、妊娠期・産後期におけるサポート内容や評価方法の引継ぎを実施し、人員を増やしました。

 トレーニングでは、妊娠期は「安全な出産のために、柔軟性と可動域の維持と向上、筋力維持」を、産後期は「練習及び身体鍛錬的トレーニング(強化を目的としたウエイトトレーニング)を実施できる身体をつくること」を目的としました。この目的を達成するために、診察及び身体機能評価の内容を加味し、トレーニングを実施しました。パラリンピック競技選手に対しては個々の身体特性や障がいの程度に応じたプログラムの実施、計画、評価が求められました。妊娠期のサポートについては、効果的な評価方法について科学部研究員とともに検討・実施しました。妊娠期トレーニングを実施するにあたり、安全管理としてまずアスリートの産科主治医にトレーニング実施の許可を得ました。その後産婦人科医によるトレーニング前後のチェックとして、経膣・経腹エコーで子宮頸管長や胎児心拍数を確認しました。測定評価として、BLS、FAAB、COPをとり、身体の経過を評価しました。

 栄養は、食事摂取状況調査・体組成測定・授乳状況・トレーニング状況・鉄栄養状態・骨密度の把握を行いながら、産後の競技復帰にむけた食事管理の情報提供を行いました。妊娠期は炭水化物摂取量不足によりエネルギー不足、またバランスが偏っていたため、胎児の発育や母体の変化(体重増加)とあわせて炭水化物目安量やエネルギーバランスについて確認を行いました。また、不足がちな鉄分についても妊娠後期は特に必要量が増えるため積極的な摂取を勧めました。

 新型コロナによる緊急非常事態宣言や東京・北京オリンピック・パラリンピックによりJISSが使用できない期間はオンラインや外部施設を利用し、評価やトレーニングのアドバイスを行いました。

得られた成果

今後既存サポートの枠組みの中で妊娠期・産後期アスリートを受け入れる体制を構築していけるよう、各分野既存サポート事業の中でサポートを実施しました。妊娠~出産、産後復帰トレーニング、復帰計画、身体づくり(栄養)について各分野の専門家とのオンライン会議で情報共有し、選手を交えた定期的なヒアリング等、関係各所に協力を得ながら支援の継続をしました。その結果、産後評価の結果や選手のニーズに合ったサポートの実施のための計画的かつ切れ目のない支援の継続を達成することができました。専門スタッフからも「前例の無い状況下ではあったが、オンラインでの対応やスタッフ間での連携を継続できたことで、対面での支援に良い手応えが得られた」とコメントを頂きました。

今後の課題

 本事業終了後は既存サポートの枠組みの中で妊娠期・産後期アスリートを受け入れる体制を構築していく流れにあり、各分野が連携できる体制整備が必要となります。定期的なミーティングにより、選手に分かりやすく簡潔に伝えられるような書面やデータによるフィードバック方法や他分野のスタッフとの情報共有や連携が必要です。今後はオンラインと対面でのサポート方法やサポートの連携体制も更に充実させる必要があります。

2.地域連携ロールモデルプラン

目的・背景

 これまで12名の女性アスリートを支援対象として、JISSで妊娠期・産後期トレーニングサポートプログラムを実施してきました。支援する中で、妊娠、出産、育児から円滑な早期競技復帰には、産後評価、多分野連携、支援体制の整備(託児室、育児サポート)が重要であることがわかりました。産後競技復帰を目指し、本事業の支援を希望しているにも関わらず、地理的な関係からJISSでの支援を受けることが難しい選手が存在し、本人と所属先より相談を受けたことから、地域連携ロールモデルプランを実施してきました。

実施概要

 NFや地域の特性に合わせた妊娠期・産後期トレーニングサポートプログラムを実施しました。妊娠期・産後期アスリートの評価方法や支援体制等をパッケージ化し、他の組織で実施しました。対象選手の所属するNFの指導の下、勤務先、所属チーム、チームの所在地方自治体、地域の専門家(婦人科医、理学療法士、管理栄養士、スポーツメンタルトレーニング指導士等)が連携を図り、JISS専門スタッフから伝達を行いました。伝達を受けた地域の専門家が、対象選手の活動拠点で競技復帰への支援を行い、モデルケースとしてその経過をモニタリングしました。地域連携ロールモデルプラン支援対象者は5名でした。

得られた成果

 支援体制の持続可能性を鑑みつつ、遠隔地で活動しているアスリートへサポートを実施することができました。昨年度より継続してサポートを実施している団体は、地域の専門家と所属チームが連携を図り、妊娠期・産後期の支援体制が構築できており、復帰に向けたプログラムを実施していました。本年度よりサポートを実施している新規団体は、初回にヒアリングを実施、他団体のロールモデルプランを例に個々の実態に応じたサポート体制を構築しました。地域連携ロールモデルプランの特徴である遠隔でのサポートは、昨今のコロナ禍も関係して、オンラインで支援体制の構築やサポートの伝達を行うことが前提でした。オンラインでサポートを実施するにあたり、選手、地域の専門家、所属チーム関係者とJISS専門家スタッフとの関係構築は非常に重要であると考え、妊娠期・産後期共に定期的なヒアリングを実施し、地域での円滑なサポートに繋げられました。技術の伝達等、対面でのサポートが必要な場合もありますが、オンラインでサポートを実施することで、継続的な支援が可能になると考えられます。また、パラ種目のサポートを実施したことにより、車いす競技のサポートが検討されました。オリ種目とパラ種目では、同等のトレーニング内容を実施することは困難でしたが、安全に出産し、競技復帰に向けたサポート体制の構築に関しては共通項目でした。個々の課題に応じたプログラムを構築していきますが、安全な出産、産後の早期競技復帰という面では共通した目標であるため、産後の課題は共通しており、産後1年ごろまでは競技種目関係なく、早期復帰に向けたプログラムを実施しました。

今後の課題

 競技復帰までの経過で、所属チーム、NF、都道府県協会、都道府県体協、勤務先、地方自治体、大学、病院等と連携して、女性アスリートの個々に応じた支援体制の構築が求められます。支援体制の構築に関しても、チーム所属の選手と個人で活動する選手とでは体制構築までの方法に相違がありました。チーム所属の選手は、チームトレーナーが在籍していることや総合病院と連携していることが多いため、スムーズな支援体制の構築が可能でした。一方で、個人で活動する選手は、JISSと連携して支援をするための関係機関を探すことが必要でした。連携先は、統括する団体等のネットワークを利用して探すことができましたが、支援体制の構築は容易ではありませんでした。また、選手の活動拠点によっては、必ずしも連携先が見つかるとは限らないという課題もありました。地域大学病院の医師を中心にサポート体制を構築し、院内だけでなく近隣の総合病院の関係者が主体となって環境整備をすることにより、多方面・他地域の専門家と繋がるケースがありました。現在、女性アスリート外来が全国に拡大されており、地域でも女性アスリートの相談先が増加しています。日本全国各地域で妊娠期・産後期アスリートの支援体制を構築していくためには、女性アスリート外来を実施している病院等と連携し、サポート事例やサポート内容を広く発信・伝達していく必要があります。そのためには、場所や設備を伴わず、妊娠期・産後期サポートの未経験者であってもサポートができる内容に精査することが課題となります。

子育て期における育児サポートの実施

目的・背景

 育児サポートプログラムは、子育てを行いながらトップアスリートとして競技を継続できるよう、アスリートの競技環境を整備することを目的としています。これまで休日練習、大会、合宿での遠征等は、普段の保育園では対応できない場合が多く、また合宿会場や大会会場でも、託児室の設置といった施設環境が整っていないといった現状があり、このような課題解決へのアプローチとして、JISSでは育児にかかる経費の一部を負担してきました。平成30年度から令和2年度までは、NFやスポーツ団体へ育児サポートを再委託し、託児室設置及び育児サポートに係る課題等をNF等の視点から明確にしました。その一方で、コロナ禍の試合延期や選手がチームでの活動を停止したことにより、書類作成に時間がかかってしまったり、妊娠期・産後期サポートから育児サポートに繋がらないケースがあったりしました。令和3年度は妊娠期、産後期、子育て期を包括的な切れ目のない支援となるよう、JISSにて直接育児サポート事業を実施しました。

実施概要

(1)育児サポート支援対象者
令和3年度は、前年度の支援対象者3団体5名を継続してサポートするとともに、妊娠期、産後期サポートより継続の4競技5名、新たに2競技2名にヒアリングを行い4名に育児サポ―トを実施しました。
(2)育児サポート対象経費
JISSでは育児サポートの形態として、「育児サポート協力者(以下「協力者」という。)に育児サポートを依頼する場合」と、「一時保育やシッター派遣サービスといった民間又は公的なサービスを利用する場合」との大きく2つに分類し、育児サポート対象となる経費を整理しています。 また、経費の対象を定める際は、長期遠征、休日練習及び競技大会といった、普段の保育園等では対応できないような、アスリート特有の状況下で発生する経費であることを基準とし、普段通園する保育園の経費や休暇時に協力者に育児サポートを依頼する場合の謝金等は対象外としています。
(3)育児サポート事例
令和3年度実施した育児サポートの実績については、下記のとおりです。
親族や知人等の協力者に依頼する方法では、大会場や支援対象者宿泊先等で育児サポートを実施した対象者数は2名、件数は3件であった。協力者宅で育児サポートを実施した対象者数は2名、件数は2件であった。支援対象者宅で育児サポートを実施した対象者数は5名、件数は15件であった。次に、民間や公的なサービスを利用する方法では、派遣サービスを利用し、支援対象者宅で育児サポートを実施した対象者数は4名、件数は18件であった。派遣サービスを利用し、協力会員宅で育児サポートを実施した対象者数は1名、件数は8件であった。保育園の一時保育を利用し、育児サポートを実施した対象者数は2名、件数は10件であった。合計支援対象者数は15名、育児サポート件数は52件であった。
※「支援対象者数」はサポート実績のあった支援対象者9名のうち、該当する形態のサポートを実施した人数を示す。

※「育児サポート件数」はサポートの延べ日数ではなく、支援対象者からの申請件数をもとにカウントした。(例:全日本選手権中の5日間、育児サポートを実施した場合は1件としてカウント)

得られた成果

■支援対象者からの評価
今年度は再委託ではなく直接、支援対象者に育児サポートを実施したことにより、生の声を聴くことができました。ヒアリング等で支援対象者と意見を交換し、年度内に直面している課題が解消でき、再委託では拾いきれない今後の不安や個人の考え方等を確認できました。また、年度末には支援対象者からアンケートにて意見を収集した結果、「子供が小さい時の方が自身に合わせることができる。競技人生の長いパラアスリートやスタッフにとって、変えることができない大きな子供の生活を維持しながら、競技ができたり選手のサポートができたりする支援が必要」といった声が上がりました。また、東京2020大会の開催に向けた合宿や試合等が直前に集中したため、JPCからの継続支援対象者は、育児サポートの利用が前期に集中しました。しかしコロナ禍で活動が制限される中、より柔軟な支援を必要としていることが判明しました。サポート対象の範囲や事務手続きに対する意見はあるものの、金銭的な援助だけでなく、精神的・身体的な負担の軽減モチベーションの維持等、支援対象者の競技環境整備の一助として、育児サポートが機能していることが示唆されました。
■ニーズに合わせた切れ目のない支援
近年は育児サポートをNFやスポーツ団体等へ再委託していたため、妊娠期・産後期からサポートが途切れてしまうアスリートが見受けられましたが、今年度は子育て期まで継続して切れ目なく支援することができました。競技と両立するためには、妊娠から出産、子育てに至る一連の支援が必要であることが改めて理解できました。また、対象者の居住地域にある保育施設の協力を得て、本人やNF等のニーズに合わせた良好な育児サポートに繋がる事例が蓄積できました。

今後の課題

 令和3年度は、toto助成の審査項目の一部に育児サポートが加わり、徐々にではありますが子供を連れて競技を継続する環境が理解されるようになってきました。しかし、昨年来のコロナ禍の影響は大きく、無観客開催が増えたため、会場に託児施設を設置することは実施できませんでした。また、子供の年齢も上がる毎に必要とされる育児サポートが変わってくるため、育児経験のある先輩アスリートの意見や体験談等を、現役の支援対象者に伝える機会も求められています。サポート実績に拡がりがみられ、適切な育児サポートの在り方について基準を改めて見直す時期に来ています。今後も包括的に切れ目なく支援していくためには、アンケートより得られた情報をNFやスポーツ団体、自治体、地域連携も含めた関係者等に伝達し、育児サポートの重要性及び有用性の認識を促していきたいと考えます。そして、何より支援対象者や所属団体が自ら支援環境を整備していくことにも尽力する必要があります。

女性特有の課題解決に向けた知見の展開

【各プログラムの概要】

  1. ネットワーク会議の開催
  2. カンファレンスの実施
  3. 国際大会における女性アスリートに関する調査
  4. ホームページ等による情報発信

1.ネットワーク会議の開催

 調査研究受託団体間の情報共有とネットワーク強化を目的に、ネットワーク会議をオンラインにて開催しました。平成25年度から令和3年度までの間に、スポーツ庁より女性アスリートの戦略的強化に向けた調査研究を受託した団体の主担当者又は副担当者、スポーツ庁担当者等が23名参加し、各調査、研究の情報共有、研究成果の現場への還元方法や今後のネットワーク強化に向けた意見交換を行いました。

2.カンファレンスの実施

 JSCでは、2011年度からチーム「ニッポン」マルチサポート事業の一環として女性アスリートの戦略的サポートを開始し、2013年から女性アスリートの育成・支援プロジェクトとして現在に至るまでに様々な取組を行ってきました。令和3年度スポーツ庁委託事業「女性アスリートの育成・支援プロジェクト」カンファレンスでは、2011年度からの10年間の歩みを振り返り、未来のオリンピック・パラリンピックに向けて持続可能な女性アスリート支援について、登壇者や参加者と共に考える機会を提供することを目的として実施しました。

開催要項

テーマ
我が国における女性アスリート支援の歩みとこれから
日時
令和3年12月13日(月)13時~16時 ※アーカイブ配信:1月末日まで実施
場所
オンラインによる開催
対象
アスリート、指導者、競技団体関係者、女性アスリートの育成・支援に関心のある者 533名
内容
【カンファレンス1】女性スポーツを取り巻く施策と調査研究の変遷
【カンファレンス2】女性アスリート支援の歩みとこれからに向けて
【研究一覧(オンライン展示)】 各団体の研究成果を特設ページで紹介し、資料のダウンロードや、各団体の担当者とメッセージのやり取りを行いました。
Slidoの活用
オンラインイベントの開催中にSlidを活用し、参加者からの質問をオンラインで受け付けたり、参加者の意見を投票形式で収集できたりしました。
アンケート集計
42名回答を得て、86%から好評を得ました。男性が26%、女性が74%と、昨年度同様に約3割を男性が占めていました。年代は40代が39%、30代及び50代が24%でした。参加区分はNF関係者が一番多く、次いでスポーツ団体関係者、研究者の順となりました。カンファレンスの満足度は98%から好評を得ました。

【カンファレンス1】

  • 低用量ピルの服用等、今まで抵抗感があったが詳しく知りたい
  • 中・高生が、月経と向き合いながら、競技力向上に向けて活動できるような、ジュニア向け資料があれば、ありがたい

【カンファレンス2】

  • 実際に出産を経験されたアスリートの方の経験談を聞けたことは貴重だった
  • 医科学スタッフ・コーチ・パートナー(一般人とアスリート)として、妊娠~競技復帰を支えた男性陣の話・意見もあると良かった

【全体を通して】

  • 男性では思いにも及ばない様々な点の問題や課題に考える良いきっかけとなった
  • 関係者の皆さまのご尽力により、この10年で女性アスリートへの支援の環境が大きく変わった

3.国際大会における女性アスリートに関する調査

 JSCでは、平成25年度より継続して女性アスリート支援プログラムを実施してきました。オリンピック・パラリンピック競技大会における女性アスリートの参加割合は、近年半数になりつつあります。スポーツ庁をはじめ、スポーツにかかわる諸団体が、SDGs達成に向けて一層積極的に貢献することが求められており、持続可能かつジェンダー平等となる支援体制の強化が目指されています。女性アスリートが参加できる競技種目の増加や女性アスリートの三主徴への理解等から、長期的に競技を続ける選手が増えており、女性アスリート活躍の場は広まってきています。女性アスリートの国際競技力向上に寄与することを目的として、国際大会における女性アスリートに関する事例調査を実施しました。

4.ホームページ等による情報発信

「女性アスリートの戦略的強化に向けた調査研究」で得られた知見を広く一般に公開するため、平成30年度からJISSホームページ内にポータルサイトを更新しました。調査研究受託団体と調査結果が一覧となっており、調査研究で得られた情報を取りまとめました。また女性事業専用Webページにて、プログラム概要やサポート紹介映像、刊行物のダウンロード、講習会のストリーミング配信等が閲覧でき、専門的な知識や情報をより効果的に発信しました。

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