[セーリング]吉田愛選手(前編)

  • Mama Athletes Network (MAN)
  • 取材日:平成30年12月5日(水)
  • 場所:国立スポーツ科学センター

[セーリング]吉田愛選手
セーリング
2008年 27歳 北京オリンピック 14位
2012年 31歳 ロンドンオリンピック 14位
2012年 結婚
2013年 32歳 吉岡選手とペア結成
2016年 35歳 リオデジャネイロオリンピック 5位
2016年 36歳 妊娠
2017年 2月 妊娠期トレーニング開始
2017年 6月 出産
2017年 7月 産後トレーニング開始
2017年 9月 海上練習再開
2017年 10月 大会復帰 ワールドカップ 蒲郡 2位
2018年 37歳 世界選手権デンマーク 1位

Q. 競技を続けながらの妊娠・出産はイメージしていましたか

はい、考えていました。リオ五輪にむけて活動している時には既に結婚していたので、出産はオリンピックを節目に考えていかなければならないと思っていました。年齢的にもリオ五輪の後に産もうというのは前々から決めていました。競技を続けるかどうかについては東京五輪開催の決定次第でした。しかし、もし出産するならば、自分が子どもの面倒を全て見るのは難しいとわかっていたので、色々とイメージしながら考えていました。母と夫には以前から、リオ五輪終了後のなるべく早いタイミングで競技を続けながら出産をしたい、ということは伝えていました。以前MANワークショップに母が聞きに行ったりもしており、家族でリオ五輪後どのように活動していくかイメージしていました。

Q. 海外のセーリング選手の中にママアスリートはいますか

はい、結構多くいます。同じ種目の同じ年齢の選手にもママアスリートがいます。その選手が子どもを連れて遠征しているのを見て「いいな。私もこんな風に遠征したいな」と思ったりしていました。身近にいたのでイメージしやすかったです。

Q. 日本のセーリング選手でママさんは他にいらっしゃいますか

国体に出られている先輩達はいらっしゃいますね。昔からセーリングではママさんにとってちょうど目指せる目標が国体なんです。日本セーリング連盟は約10年前から国体でチャイルドルームを設けています。

Q. 周りにはいつのタイミングで出産の話をしたのでしょうか

私がリオ五輪後に出産したいということは前々からペアの相方にも話していて、理解してくれていました。相方が東京五輪に向けてのモチベーションが非常に高かったのですが、私の出産を待ってもらうということになりました。監督とも相談しながら出産予定日から計算して計画を立てました。
 所属会社には安定期を過ぎた頃です。ある程度見通しがついてから具体的な話をし始めました。出産後も競技活動をするためには、人手の確保の他、活動費もさらに必要になってきます。所属会社がそれを認めてくれるかという不安もありました。会社には比較的スムーズに妊娠出産を受け入れてもらうことはできました。遠征に子どもを連れていく費用をどのように出すか、というところは難しいところでしたが、受け入れてもらうことができました。

Q. 妊娠中にイメージしていた事と実際に出産した後とでギャップはありましたか

色々な人達の話を聞いていたので、そこまで驚くようなことはありませんでした。ただ、自分の体力が追いついていかないことは想像以上でした。以前は風邪をひいたり、高熱を出すことはほんどなかったのですが、特に産後半年から1年くらいは子どもから風邪をもらってしまったり、繰り返し風邪をひいたりして、免疫力の低下を感じました。これが産後の身体なのかと実感しました。自分の体調面の変化には本当に驚きギャップに戸惑いながらも、選手として体力をつけて行かないといけなかったことは大変でした。現在、やっと失ったところに上乗せで体力をつけることが出来てきています。

Q. どのような方に妊娠・出産についての話を聞きましたか

妊娠に関しては一般の友達から話を聞きました。あとはJISSでの妊娠期トレーニングの時にトレーニング体育館の古屋トレーナーから、国内外のママアスリートの事例を聞いたりしました。

Q. 妊娠・出産の話を人から聞いて参考になったことはありますか

色々な人に話を聞いた上で心掛けたことは、妊娠中の体力の維持です。妊娠中は体力をなるべく落とさないように気を付けていました。体調を見ながら動ける時は無理のない範囲でなるべく動くように意識していたこともあって、妊娠中の体力の低下はそれほど無かったのではないかと思いますし、それが早く競技復帰することにつながったと思います。

Q. JISSで妊娠期トレーニングを受けられていましたが、来られない時はトレーナーからトレーニングメニューが出されていたのですか

はい。トレーニングメニューは作ってもらっていました。それにプラスして行う分は、体調を考慮して自分で強度を決めてください、と言われていました。自分の身体とお腹の子どもの様子を考え調整して行っていました。心拍数も参考にしていました。妊娠中、辛い時は本当に動けないですし、無理な時は本当に無理をしないようにしていました。

Q.妊娠中お腹の張りを感じたことはありましたか

私はあまり感じない方で、初めはお腹が張る感覚がわからなかったのですが、実際にエコー検査(超音波検査)をしながら産婦人科の先生に教えてもらいました。自分でもわかるようになってきたので、一つの目安にして無理をしないようにしていました。今まで辛いトレーニングをしてきていたので、身体が辛いことに鈍感になっていることもあり、JISSのクリニックでのエコー検査は身体の状態を知るのに有効でした。

Q. 妊娠中のトレーニングはいつまで行っていましたか

出産の直前まで行っていました。実は、恐らく動き過ぎが原因で破水してしまい、入院してそのまま出産しました。出産直前にそのようなトラブルはありましたが、幸いそれ以外に大きなトラブルはありませんでした。

Q. 出産についてはいかがでしたか

破水してしまったので、予定より1か月くらい早い出産になりました。赤ちゃんも小さい状態で生まれたので、あまり骨盤も開かず、通常分娩でしたが負担は大きくなかったのではないかと感じています。復帰は10月の大会と決めていたので、早く産まれた分、早く復帰する準備ができました。復帰戦を考えると、この1か月は大きかったです。

Q.産後はいつからどんなトレーニングを始めましたか

6月に出産して、産後一か月は安静にしていたのですが、まずウォーキングから始めました。焦ってはいけないと思ったので、徐々に歩く時間を増やしていきました。初めての出産でわからないことだらけで、子どもにミルクをあげるタイミングや寝るタイミングなどうまく自分で調整することが難しかったです。やはり以前のように自分に時間を使うことはできなくなりました。外を歩くのも30分くらいしかできませんでしたが、これが普通なんだと思って、焦らないようにしました。この時は実家にいて、外に出ている間は、母が子どもの面倒を見てくれていました。筋力トレーニングは8月からJISSで行いました。負荷はあまりかけず、体幹を鍛えていくメニューから徐々に始めました。

Q. 産後初めて海上に出たのはいつからで身体の調子はいかがでしたか

海上でのトレーニングは9月から開始しました。産後初めて海に出た日は強風だったのですが、すぐにバテてしまい、身体がついていかない感じがしました。自分の体力の低下具合は、生活をしていてわかっていたので、ある程度予測できていました。ヨットの感覚は身体に残っていて、違和感はそこまでありませんでした。海に出れたこと自体はすごく嬉しかったです。

Q. 復帰後に大会出場した時に気持ちの変化などはありましたか

海上に出てから大会までは実質一か月くらいでしたが、大会に出られる喜びは今までと全然違いました。久しぶりの大会でしたし、どれくらい自分ができるかわからない不安もあったのですが、子どもを連れて大会に出られるというのは大きい喜びでした。この時の大会は国内で開催されたので子どもを連れてくることが出来ましたが、海外での試合だったら難しかったかもしれません。

Q. 復帰戦の時はどれくらい前から会場に入ったのですか

この時は大会前に会場で日本セーリング連盟の合宿があり、合宿と大会を合わせると2週間は滞在しました。母が子どもの面倒を見てくれていました。

Q. 復帰戦で2位という結果でした。大会の結果にはどう感じましたか

良かったと思います。出場選手を見て、復帰戦ですが3位くらいには入れればと思っていました。実際にミスもありましたし、レース勘を忘れている部分もありました。技術に関してはあまり変わっていないのですが、レースの組み立てなど、頭の回転が追いついていかず、もう少しいけたかもしれない、という感じで終わりました。結果には納得していますが、ある意味上出来、ある意味ではもう少し行けたと感じました。ただ復帰戦で2位という結果で、自分自身もまだまだできるという感覚があったので、今後に向けて希望は見えました。

後編に続く

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